大平サブローさんから聞いた驚愕の事実 新ネタは「お互いのセリフを覚えるだけで、ぶっつけ本番」

【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#138
大平サブローの巻
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お会いすると「おはようございます」の後に必ず「平成の秋田実、本多先生!」と恐れ多いことを言ってくださり、ニヤリと笑われる大平サブローさん。
私が初めてお会いしたのは1985年、阪神・巨人さんとの打ち合わせで行った、うめだ花月の楽屋。サブロー・シローさんが打ち合わせをされているところでした。
「太平サブロー・シロー」といえば1980年代初頭の漫才ブームで人気を博し、療養中だった私も大ファンの名コンビ。洗練された言葉がスピーディーに飛び交う漫才はテレビで見るたびワクワクしていましたから「やっぱりこういう打ち合わせ・稽古をされているからこそ、あんな漫才ができるんだ」と納得していました。ところが現実は全然違ったのです。
いったん吉本を離れていたサブローさんが1993年に復帰され、「痛快!エブリデイ」(関西テレビ)の人気企画だった男性タレントだけでニュースを好き放題に斬っていく「男がしゃべりでどこが悪いねん!」でお世話になるようになった時のこと。
大ファンで「楽屋で打ち合わせをされているのを何度もお見かけして台本を書いてみたかったです」とお話しすると「違うねん、違うねん、あれはただの雑談」と手を振って否定され「シローちゃん、ネタ合わせしたら予定調和になるから言うて、打ち合わせも稽古もしてくれへんかってん」という答えが返ってきました。
阪神・巨人さんの緻密な稽古を目の当たりにしていた私には本当に驚きでした。漫才に携わっている者からすると“驚愕”という言葉の方がふさわしいでしょう。
「ネタ合わせせずに新ネタをされてたんですか?」「そうやねん。台本のお互いのセリフを覚えるだけで、ぶっつけ本番」「考えられないですね!?」「そこへ台本にないアドリブを入れてくるから、ついていくのに必死やったよ」。
さらに「新ネタの時はまだ台本があるからええねんけど、舞台の時はなに言うてくるかわからへんねん。それでもボケに合わせたツッコミをせなあかんから一言も聞き逃されへんやんか、大変やったよ。それでもえらいもんやね。やってるうちにシローちゃんの言いそうなことが予測できてくんねんな」と笑顔で懐かしそうに話しておられました。
数多くの漫才コンビの稽古に立ち会ってきた私からするとにわかに信じられないような内容でしたが、この話を伺って、上沼恵美子さんとの番組などで予測不能なボケに対して当意即妙に返しておられること、また出演者の中にサブローさんがおられるだけで安心感が得られることに納得し、腑に落ちました。
サブローさんにとっては毎回の漫才が「千本ノック」のような特訓だったのだと思います。若手たちにはとても勧められませんし、やれと言ってもできない天才の“離れ業”です。
司会に、パネリストに、漫談に、歌にギターにマラソンに、本当に衰え知らずの大平サブローさん。これからどんな挑戦をされるのか楽しみにしたいと思います。
(本多正識/漫才作家)
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