英BBCがジャニー喜多川の「少年虐待」を特集 番組制作に協力した私が言いたいこと

【元木昌彦 週刊誌からみた「ニッポンの後退」】
英国の公共放送BBCが3月7日に放送した「ジャニー喜多川の少年に対する性的虐待問題」を扱ったドキュメンタリーは、日本ではほとんど話題になっていない。
週刊文春、日刊ゲンダイなど一部を除いて、大新聞、スポーツ紙、テレビがまったく取り上げないからである。
この番組のディレクター、インマン恵は、「これは50年以上続いた少年に対する性虐待のシステムの事件です。スキャンダルではなく事件なのです」(文春3月16日号)と言っているが、聞く耳を持つメディアはほとんどない。
実は、私は1年前、BBCから協力を依頼され、テレビ電話で相談に乗り、昨年8月末には池袋ジュンク堂書店で1時間余り取材を受けているのである。だが、テレビ向きの顔ではないと判断されたのだろう、カットされてしまったが。
BBCのナンシー・ロバーツは取材依頼のメールにこう書いてきた。
「喜多川氏による性虐待は、歴史上もっとも重大な事件の一つであると見ています。2019年の喜多川氏の死と世界的に広がる#MeToo運動、米ハリウッドの巨匠ハーヴィー・ワインスタイン(原文ママ)の有罪判決も重なって、今まさにこの問題について再検証するべきだと考えています」
彼女はテレビ電話で、「なぜ、被害を受けた少年たちが声を上げないのか」と聞いてきた。私は、Netflixが放送した歌手マイケル・ジャクソンに子供のころ性的虐待を受けた元少年2人の告白番組(フェイクドキュメンタリーだという声もあるが)を例に出し、この国では、男が男から性的虐待を受けたと公表するのは、アメリカ以上に難しいと言った。
「なぜ逃げなかった」「合意の上だったのでは」などという心ないことを言う者もいるし、肉親からも「世間体が悪いからよしてくれ」と言われてしまうからだ。
それでも意を決して告白しようとしても、大新聞は傘下にテレビ局を持ち、大手出版社は少年少女向け雑誌を多く持っているから、ジャニーズに媚(こ)びへつらって取り上げない。
ジャニー喜多川の少年たちに対する性的虐待が大きな社会問題にならなかったのは、この国のメディアが意識的か無意識かにかかわらず、“共犯者”として加担してきたからだと私は考えている。そう話した。
喜多川が亡くなった翌々日の朝日新聞「天声人語」は、「これほど素顔を知られぬまま旅立った人も珍しいのではないか。(中略)(喜多川に=筆者注)ジャニーズらしさとは何かと尋ねると、『品の良さ』と答えたという」と書いた。ここまでくると無邪気というより無知というべきであろう。
BBCは3人の“被害者”のインタビューに成功した。その一人、30年以上前にジュニアだったハヤシ(仮名)は、うつむきながら、声を絞り出すようにして、あの日、喜多川からされた“悲惨な体験”を語った。今でも彼に対する感謝の気持ちはあるが、「感謝の気持ちと性犯罪は別なんだと思う」と、複雑な胸の内を明かしている。
ジャニーズ事務所側が取材に応じないのはBBCも織り込み済みだったはずだ。だが、取材したジャーナリストのモビーン・アザーによれば、NHKや民放、新聞、警察も「完全無視か丁寧な拒否」(文春)で、どこも応じなかったという。メディアは自らジャーナリズムであることを放棄したといってもいいだろう。
BBCのリポーターが言っているように「喜多川は死んでも守られている」ようだ。だが、その守っている人間の素顔が泥にまみれていたことを、彼らが知らなかったはずはない。(文中敬称略)
(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)
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