第2次世界大戦を3等身アニメで再検証する戦争映画「ペリリュー 楽園のゲルニカ」
第2次世界大戦終戦から80年の今年。数々の激戦を生き抜いた奇跡の不沈駆逐艦を描いた「雪風YUKIKAZE」、終戦終結を知らずに木の上で2年間“孤独な戦争”を続けた2人の兵士を映し出した「木の上の軍隊」など、節目の年に合わせた戦争映画が公開されてきた。その末尾を飾るのが、12月5日から上映しているアニメーション映画「ペリリュー 楽園のゲルニカ」である。
この作品は第46回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した、武田一義による同名漫画のアニメ化。1944年9月から約2カ月半にわたって繰り広げられた、パラオ南西部ペリリュー島での戦いを中心に、日本軍の兵士・田丸が持久戦を生き抜いていく姿を描いている。
キャラクターは3頭身で見た目が可愛いが、中身は戦場で戦闘や飢え、病気やけがによって命を失っていく兵士の姿を、真摯に描いている。漫画家志望で、仲間の最期の雄姿を書き記す功績係になった田丸をはじめ、銃撃が得意で勇猛な彼の相棒・吉敷、軍隊の規律を守ることを第一とする片倉、どこか飄々と戦局を見つめている小杉。個性的な登場人物を配して、美しい南国の自然には不似合いな、緊張感あふれる戦場の日々がつづられる。
アニメーションの戦争映画といえば、日本では「火垂るの墓」(1988年)や「この世界の片隅に」(2016)「窓際のトットちゃん」(2023年)など、戦時における本土での日本人の生活を描くことで、戦争の愚かさ、恐ろしさを表現するものが多い。零戦の開発に携わった主人公を描く、宮崎駿監督の「風立ちぬ」(2013年)にしても、機体の無残な残骸は出てくるが、戦地での戦闘シーンは登場しない。戦場そのものを描いた作品は思いのほか少なくて、それはやはり人間の死を直接描くことの難しさがあるからだろう。今回の作品はそこに踏み込んでいる。アニメーションは絵の動きによってキャラクターに命が吹き込まれるわけだが、逆にいえば銃撃を受けてキャラクターが死を迎えたとき、実写映画で俳優が演じる以上に、亡くなった者が命のない物体になってしまった感覚が強烈に伝わってくる。ある意味、戦場を映した実写映画よりも戦争の怖さがダイレクトにイメージされるのだ。
中身はハードだが、可愛いキャラクターの見た目が厳しい戦場の現実を和らげ、さらに田丸役の板垣李光人、吉敷役の中村倫也が声の出演者として、ある種の軽やかさを作品にもたらしている。映画の後半では、ペリリュー島での戦いを生き抜いた田丸たちが、その後も終戦を知らず、史実通りに戦闘終結から2年半後に武装解除するまでが描かれるのだが、島にいた日本兵士1万人のうち、生き残ったのはわずか34人。その無益な戦いに身を投じた兵士たちの心情を、板垣と中村は感情に走らず的確に表現している。
今回の映画と似た題材としては戦時中のサイパン島で、タッポーチョ山を根城に日本の兵士47人が4万5000人の米軍を相手に、戦争終結後も戦った大場大尉たちの実話を描いた「太平洋の奇跡─フォックスと呼ばれた男─」(2011年)という竹野内豊主演の実写映画もあったが、アニメーションで南方の持久戦をここまでリアルに描いた作品は珍しい。第2次世界大戦のことを再検証する戦争映画は、毎年夏に公開されることが多いが、この映画こそ終戦80年に戦争を二度と引き起こしてはならないと見る者に感じさせる、真打ちの作品といえる。
(金澤誠/映画ライター)
◇ ◇ ◇
金澤誠氏の映画・名優評は他にも。関連記事【もっと読む】「国宝」が22年ぶりに邦画歴代興行収入1位を更新 大ヒット作“20年周期”の法則…では、「国宝」をめぐるヒットの法則を分析。
エンタメ 新着一覧
















