紀州のドンファン事件「完全犯罪」と須藤早貴被告の命運…「ロス疑惑」の二の舞はないのか

更新日:2024-09-29 17:03
投稿日:2024-09-29 17:00

【元木昌彦 週刊誌からみた「ニッポンの後退」】

「これは完全犯罪だ」

 紀州ドン・ファン殺人事件の初公判の冒頭陳述で、検察側はそう主張した。

 つまり、自白も物的証拠もないが、状況証拠から鑑みて、須藤早貴被告(28)が犯人に違いないと考えられるから、裁判員の皆さんは我々の苦しい胸中を察して、何とか被告を有罪にしてくださいと“懇願”したように、私には思える。

 事件は2018年5月24日に起きた。

「紀州のドン・ファン」と呼ばれていた資産家で好色だった77歳の野崎幸助が、和歌山県田辺市の自宅で急性覚醒剤中毒のために亡くなった。

 家にいたのは、資産目当てに野崎と結婚した須藤(当時22)だけだった。

 警察は事件当初から、須藤を“本ボシ”と見て、野崎が飲んだビールグラスやビール瓶、覚醒剤の入手先などを徹底的に調べ、事件当日、外出していたお手伝い、野崎の会社の従業員全員、取引先などを聴取した。

 また、須藤が結婚後に和歌山に住むことを拒み、野崎は周囲に「離婚したい」と漏らしていた“事実”。その後、離婚届を須藤に送っていたこともつかんだ。

 須藤は、結婚直後の2月に、ネットで「完全犯罪」という言葉を検索。

 離婚届が送られてきてからは、「薬物」「老人 死亡」などのキーワードで検索していたことも判明している。

 覚醒剤についても、須藤は、「覚醒剤 過剰摂取」などの言葉を検索し、4月7日には密売サイトを通じて致死量の3倍もの3グラム以上を注文していたこともつかんだ。

 2人だけの密室。動機は数十億ともいわれる資産欲しさ。すべての「状況証拠」は、犯人が須藤早貴だということを指し示しているようだが、覚醒剤は発見されていない。

 事件から3年が経った21年4月、殺人罪などの容疑で須藤は逮捕、その後起訴された。だが、黙秘しているため、悪名高い「人質司法」によって3年以上保釈は認められていない。

 12月12日に和歌山地裁で判決が出るそうだが、状況証拠だけで有罪にできるものなのだろうか? それで思い出すのは週刊文春が連続追及して話題になった三浦和義の「ロス疑惑事件」である。

 妻に多額の保険金をかけて殺したのではないか。1985年、メディアが大騒ぎしたためもあって、警視庁は三浦を逮捕・起訴した。状況証拠だけで有力な物証も自白もなかったのに1審は有罪。私は週刊現代の編集長だったが、2審判決の前に、「状況証拠だけでは無罪」と誌面で主張し、その通りに逆転無罪判決。最高裁まで持ち込まれたが、2003年に無罪が確定した。

 須藤は、札幌市の男性(当時61)から約2980万円を詐取した件でも訴えられているが、「私の体を弄ぶために払ったと思う」と、カネを受け取ったことは認めている。

 須藤が体を武器に、男たちからカネを巻き上げてきた“性悪”であることは間違いない。数十億といわれた資産目当てに野崎と結婚したが、離婚するといわれて殺しを計画したという“推理”も成り立たないわけではない。

 しかし、須藤の弁護士が冒頭陳述でこう述べている。

「あやしいから、やっているに違いない。もしそう思ってしまうなら結論が決まり、この裁判をやる意味はありません」

「疑わしきは罰せず」は刑事訴訟の基本原則である。検察は裁判員たちの情に訴えるのではなく、確たる証拠を示して有罪判決を勝ち取るべきであることは言うまでもない。 (文中敬称略)

(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)

エンタメ 新着一覧


優三の優しさシャワー全開!寅子のゴロゴロ床入り作戦も大成功だった神回
 昭和17年3月。直言(岡部たかし)の工場は軍からの注文が途切れず、順調に稼働を続けていた。戦時下で食べ物が貴重になる中...
桧山珠美 2024-05-21 15:30 エンタメ
朝ドラヒロインは「大日本国防婦人会」と揉めるのがお約束
 結婚した寅子(伊藤沙莉)は弁護の依頼も来るようになり順調な日々を送る。  ある日、手伝いとして働くよね(土居志央...
桧山珠美 2024-05-20 15:30 エンタメ
角界一の美容力士・翔猿らが明かした脱毛&モテ事情、全力で推したいのは
 圧倒的な強さと精神力、鍛え抜かれた筋肉美、昭和の名横綱“ウルフ”千代の富士、整った顔立ちと沸き立つ色気がたまらない“各...
「僕じゃ駄目かな」あすなろ白書のキムタクを想起、優三渾身のプロポーズ
 寅子(伊藤沙莉)は、弁護士として社会的な信用を得るためにお見合いをさせて欲しいと直言(岡部たかし)とはる(石田ゆり子)...
桧山珠美 2024-05-20 15:02 エンタメ
事件はいつも「あの階段」で起こる! 岩ちゃん演じる花岡もう婚約
 晴れて弁護士になったが、女性であることを理由になかなか依頼をしてもらえない寅子(伊藤沙莉)。「女の幸せより大事なものか...
桧山珠美 2024-05-20 15:02 エンタメ
炎上芸人・粗品は松本人志にビビってない!キンプリへの暴言も計算済み?
 2018年にコンビとして『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)のチャンピオンとなり、2019年にピン芸人として『R-1ぐ...
堺屋大地 2024-05-15 06:00 エンタメ
「握手」の演出に伏線?寅子と花岡は友情の証、優三のそれとは真逆だった
 寅子(伊藤沙莉)の1年先を行く花岡(岩田剛典)は司法修習後の試験に合格。どうしても早く伝えたいと寅子に電話をしてきたの...
桧山珠美 2024-05-14 16:00 エンタメ
あぶ刑事ヒットならドラマ化も?柴田恭兵の“枯れた老人”は世を忍ぶ仮の姿
 先月までNHK-BSで放送していた「舟を編む~私、辞書つくります~」はなかなか素敵なドラマでした。  三浦しをん...
映画『広末涼子』(仮)の鳥羽氏は中盤キャラ?スキャンダル史まだ続く説
 昨年6月、人気シェフ・鳥羽周作氏とのダブル不倫が報じられ、無期限の謹慎処分を受けていた広末涼子。その後、夫だったキャン...
堺屋大地 2024-05-11 06:00 エンタメ
花岡(岩ちゃん)、寅子に匂わせプロポーズ!?でも黄色いバラの花言葉は…
 とうとう合格した寅子(伊藤沙莉)、先輩の久保田(小林涼子)、中山(安藤輪子)。そして寅子と合格者が3人も出たことで、廃...
桧山珠美 2024-05-10 15:30 エンタメ
生田斗真“無痛おねだり”大炎上の後始末 羊水発言は“謹慎4カ月”だったが…
 俳優の生田斗真(39)が大炎上している。生田はインスタグラムのストーリーズで、ファンから質問に回答する企画で「今日で妊...
優三のいい人キャラさく裂!予告でヒヤリとした梅子の断崖絶壁シーンも〇
 涼子(桜井ユキ)と香淑(ハ・ヨンス)の思いを背負って、寅子(伊藤沙莉)たちは再び高等試験に挑むが、今度は梅子(平岩紙)...
桧山珠美 2024-05-09 16:30 エンタメ
『虎に翼』脚本家、アニメ界でなぜ高評価?朝ドラ人気の要因は公平な目線
 NHK連続テレビ小説『虎に翼』が好評だ。主人公は日本初の女性弁護士・三淵嘉子をモデルとした猪爪寅子。彼女が投げかける疑...
竹もとで勉強する寅子たちは今時のノマド?法律事務所の初仕事はお茶入れ
 昭和13年春、明律大学を卒業した寅子(伊藤沙莉)たち。寅子は雲野(塚地武雅)の法律事務所で働きながら高等試験合格を再び...
桧山珠美 2024-05-07 14:20 エンタメ
あさイチで光った令和の“料理男子”の新星、キスマイ横尾のライバル現る!?
 ゴールデンウィークといっても、どこかにお出掛けの予定になんの予定もなく、ただ漫然とテレビを見ていたら、神様から思わぬご...
直言ら16名全員無罪!憲法記念日に放送された寅子が語る「法」の解釈
 昭和11年12月。1年半に及んだ直言(岡部たかし)の「共亜事件」がいよいよ結審の日を迎えた。  寅子(伊藤沙莉)...
桧山珠美 2024-05-04 06:00 エンタメ