昭和100年という節目に終焉した仲代達矢の軌跡 「影武者」代役出演時の勝新太郎との確執

更新日:2025-11-14 17:03
投稿日:2025-11-14 17:00

 11月8日、俳優の仲代達矢が肺炎のため、92歳で亡くなった。これで第2次世界大戦後、日本映画に黄金時代を築いた三船敏郎、萬屋錦之介、勝新太郎、石原裕次郎、高倉健など、昭和の男優スターの系譜が、昭和100年という節目の年に事実上終焉した。

 訃報の後に出てくる報道を見ると、多くが黒沢映画を彼の代表作としていて、それはもちろん間違いではない。「七人の侍」(1954年)の通行人として登場する無名の浪人役に始まり、「用心棒」(1961年)、「椿三十郎」(1962年)で演じた主人公の宿敵、「天国と地獄」(1963年)の誘拐犯を追う刑事、そして主演を務めた「影武者」(1980年)、「乱」(1985年)まで、仲代達矢は黒沢映画に欠かせない俳優であり続けた。

 中には、降板した勝新太郎に代わって急遽主演した「影武者」がある。勝が亡くなった時、この主役交代劇の裏話を仲代達矢から聞いたが、黒沢明サイドから出演オファーを受けた彼は、盟友でもあった勝新太郎の了解を取ってから出演をOKしようと、主役交代の記者会見日までに何度も勝に連絡を試みたが、結局直接話すことができずに会見当日を迎えた。仲代によれば、勝新太郎の取り巻きや兄の若山富三郎が、代役を受けた仲代のことを許せないと怒って意図的に2人を合わせなかったらしい。以来勝とは、互いの思いを伝えられないまま日々が過ぎた。しかし1996年、仲代の妻・宮崎恭子が亡くなった時、勝新太郎・中村玉緒の夫妻が彼の自宅へ弔問に駆けつけ、そこでお互い涙を流し合ったことですべてのわだかまりがなくなったという。

延々と『リア王』を演じ続ける鬼気迫る演技を見せた仲代達矢

 彼には何度かインタビューしたが、仲代の中では三船敏郎こそ黒沢作品のトップスターであり、自分が最も共闘意識をもって現場に臨んでいたのは小林正樹監督の映画だったとか。「黒い河」(1957年)に始まり、全6部作9時間31分の大作「人間の條件」(1959~1961年)やカンヌ国際映画祭特別賞受賞作の「切腹」(1962年)では主演を務め、13本の作品でコンビを組んだ小林監督との仕事で、彼の名前は世界的に高まった。

 他にも「殺人狂時代」(1967年)で彼のコミカルな一面を引き出した岡本喜八監督や、「鬼龍院花子の生涯」(1982年)で豪放で男臭い魅力を描き出した五社英雄監督など、コンビを組んだ印象に残る監督は多い。

 70代からの晩年に名コンビを組んだのが小林政広監督で、老人問題を背景にしたロードムービー「春との旅」(2010年)、年金不正受給問題を扱った「日本の悲劇」(2013年)、認知症に侵された老俳優が、自分をシェイクスピアのリア王と重ね合わせていく「海辺のリア」(2017年)の3作品は、仲代達矢が自らの年齢と向き合って役を演じた力作になった。特に「海辺のリア」のクライマックスで、延々と『リア王』を演じ続ける鬼気迫る演技には、老優の執念を感じる。

 1997年、萬屋錦之介、勝新太郎、三船敏郎が相次いで亡くなった。その10年前、石原裕次郎が52歳で鬼籍に入っているが、彼ら4人はスター・プロを興して、自ら映画を製作している。仲代達矢は1975年に『無名塾』を創立して、活動の基盤を演劇に置いたが、一方ではそれぞれのスター・プロ映画にも出演していて、全員と親交があった。勝新太郎が亡くなった時「みなさん、向こうの世界に行ってしまわれたが、僕のために酒の席を一席空けて待っていてほしい。また一緒に飲みたいです」と彼は言っていた。今頃、昭和を彩ったスターたちと、あちらの世界でどんな酒宴を開いているか。きっと2022年に68歳で亡くなった小林政広監督も含めて、次の映画の企画を楽しそうに話し合っているに違いない。

(金澤誠/映画ライター)

  ◇  ◇  ◇

 金澤誠氏の映画評は他にも盛りだくさん。関連記事【もっと読む】スタジオジブリ宮崎駿監督作「もののけ姫」4Kデジタルリマスター版の見どころとは…では、4Kならではの注目点について同氏が伝えている。

エンタメ 新着一覧


令和ロマン・高比良くるまが“騒動”で得た「天下を獲る」ために必要な武器
 オンラインカジノ問題をめぐって活動を休止していた令和ロマンの高比良くるまさんが4月28日、約2か月ぶりに復帰しました。...
田原俊彦よ、「※ただしイケメンに限る」はもう通用しない。世のオジサンは彼の“勘違い”から学ぶべし
 6月15日放送の『爆笑問題の日曜サンデー』(TBSラジオ)にて、ゲスト出演した田原俊彦が、女性アナウンサーにセクハラを...
堺屋大地 2025-07-14 11:50 エンタメ
【募集】夏ドラマ何見る? 期待してる&ガッカリを教えて!『ひとりでしにたい』『ちはやふる』『しあわせな結婚』etc
 コクハクでは2025年名夏ドラマを対象としたアンケートを実施します。7月よりスタートする夏ドラマ、「期待している」「面...
「あんぱん」嵩らの“腹痛”は史実とちょっと違う? 懐かしい2人の登場には狂喜乱舞! 生きていてよかった…
 東京に到着したのぶ(今田美桜)たちは、さっそく聞き込みを始めるが「ガード下の女王」はなかなか見つからない。みんなで屋台...
桧山珠美 2025-07-11 18:33 エンタメ
「あんぱん」メイコ、夢はお嫁さんでいいのか? 健太郎(高橋文哉)ともう1人の“三角関係”を妄想する
 東京出張の前日。みんなで取材する代議士の資料を確認していたのぶ(今田美桜)は、岩清水(倉悠貴)が話す「ガード下の女王」...
桧山珠美 2025-07-10 18:34 エンタメ
timelesz、新体制が“古参ファン”に受け入れられる日は来るのか? 旧ジャニ「シャッフルメドレー」不参加の賛否
 7月5日、櫻井翔(43)が総合司会を務める音楽特番「THE MUSIC DAY 2025」(日本テレビ系)が放送され、...
こじらぶ 2025-07-10 11:50 エンタメ
石田ひかり53歳、今を生きる女性に伝えたい“楽しく生きていく”ためのメッセージ|映画『ルノワール』
 1986年のデビューから、映画『ふたり』『はるか、ノスタルジイ』や、連続ドラマ『悪女』、連続テレビ小説『ひらり』、『あ...
望月ふみ 2025-07-10 11:50 エンタメ
『あんぱん』ツダケンの“にゃあ”が秀逸だにゃあ!「月刊くじら」には色々とツッコミどころもあるが
『月刊くじら』創刊号は2日で2000部を売り切り、好調な滑り出しを見せる。嵩(北村匠海)は『月刊くじら』編集部に異動に。...
桧山珠美 2025-07-09 17:00 エンタメ
【10万いいね】鈴木えみ、20年前→現在の比較写真が“美しすぎる”と絶賛「変わらなすぎ!」「今の方が可愛い説まである」
 ファッションモデルから俳優業まで、幅広い分野で活躍する鈴木えみさん(39)。2025年7月7日に自身のInstagra...
春ドラマの評判を調査!本命『最後から二番目の恋』は2位。1位は意外な快進撃。日常系が人気、刺激疲れか?
 2025年の春ドラマが、次々とフィナーレ。今期はSNSでバズった顔ぶれも多く、ドラマファンからしても楽しいシーズンだっ...
「あんぱん」嵩は受かるのか…って次週予告編でネタバレか? アンパンマン声優の姿もチラリ
 のぶ(今田美桜)の家で暮らすことになったメイコ(原菜乃華)は、夢に向かって一歩を踏み出す。そしてのぶも、月刊誌の刊行に...
桧山珠美 2025-07-05 08:00 エンタメ
『あんぱん』のど自慢といえば「ひよっこ」有村架純を思い出す。メイコが歌うのはどの歌なのか?
 夕刊の話がなくなり、時間を持て余すのぶ(今田美桜)だったが、夕刊の代わりに月刊誌を出せることに。岩清水(倉悠貴)と歓喜...
桧山珠美 2025-07-03 18:11 エンタメ
TOKIO 国分太一騒動で危うい“料理イケメン”たち「男子ごはん」での気になる発言
 またひとり、旧ジャニーズのタレントが消えてしまいました。今度はTOKIOの国分太一(50)です。今月20日、無期限の活...
東海林(津田健次郎)はエラいのかポンコツなのか? ともあれ“ツダケン”の魅力的な演技に惚れ惚れ
 高知新報が夕刊発行の申請をし、のぶ(今田美桜)は編集長を任された東海林(津田健次郎)と先輩記者の岩清水(倉悠貴)と共に...
桧山珠美 2025-07-01 18:19 エンタメ
【再募集】2025春ドラマどうだった?面白かった&ガッカリを教えて!『あんぱん』『最後から二番目の恋』『対岸の家事』etc
 引き続き、2025年春ドラマを対象としたアンケートを実施します。続々と最終回を迎えた4月よりスタートの春ドラマ、あなた...
「あんぱん」竹野内豊らが退場→津田健次郎と倉悠貴が新たに補充。イケメン好きにも優しい朝ドラに感謝したい
 闇市で渡された東海林(津田健次郎)の名刺を頼りに、高知新報にやってきたのぶ(今田美桜)。しかし、東海林は全く記憶にない...
桧山珠美 2025-07-01 17:39 エンタメ