男女の性愛ってナニ?虚構と真実に迫る花房観音著「愛の宿」

内埜さくら 恋愛コラムニスト
更新日:2020-06-24 06:00
投稿日:2020-06-24 06:00
「愛の不時着」にドハマりしている方も、そうでない方も、映像以上に想像力を掻き立てられる文字で綴る“愛の世界”に浸りませんか? 甘美な欲望に貪欲かつ忠実なオトナ女子に、オススメの作品を紹介するコクハク発のエンタメ情報。今回は、小説「愛の宿」(花房観音先生)です!

舞台は京都 ワケありカップルの物語

登場人物の心情を活写した1冊(写真:iStock)
登場人物の心情を活写した1冊 (写真:iStock)

「もし、あの夜、あのホテルに泊まらなければ――」

 性愛と情念の名手・花房先生が紡ぐ6篇は、この書き出しから始まります。舞台である京都の繁華街にひっそりと佇むラブホテルに、ワケありカップルが事件に巻き込まれて足止めされてしまうのです。

 カップルたちの事情は不倫や初体験、出会い系、元恋人との再会など奇抜な設定ではありませんが、心情の描き方に説得力があるのでグイグイ引き込まれていきます。独特のテンポがいいリズム感で書かれているので、ページを繰る指を止められませんでした。

「花房先生は、ご取材をされたのかしら。それとも今まで読書で得た知識や経験で書いたのかしら」

 どの篇でも思いましたが、筆者がとくに感じたのは「嘘の宿」。既婚男性である佐川修二と、独身女性である片山邦恵の不倫物語です。いつもならチェックアウトをしたらサヨウナラするはずなのに足止めされてしまい、邦恵は修二が「家庭を大切にしている」事実を目の当たりにしてしまいます。そして、「今まで修二と交際してきた自分の人生は何だったのか」と考え始めるのです。

――子どもが大きくなったら結婚しよう、妻を女と思ってない、お前が一番いい女だから、別れたくない。妻とはもう冷めているけれど子どもたちが大切だから家族でいるだけだ――私には、そう言ってたくせに、嘘じゃないか。

 不倫男が言い放つ、常套句のオンパレード! 既婚男性に口説かれている、あるいは関係を持っている女性は、絶対にこれらの言葉を信じてはいけません。あなたに本気で誠実であろうとする男性は、言葉とともに必ず行動も伴うはずだからです。

自身のラブホ経験も思い出しながら楽しめる

梅雨のおこもり読書に(写真:iStock)
梅雨のおこもり読書に (写真:iStock)

 筆者の知人に、一度きりでキッパリと不倫を卒業した30代の女性がいます。彼女いわく、「ホテルに入るまではすごく優しかったのに、コトが終わった途端、私の身支度が終わる前に、急いで先に帰ろうとした姿を見て急激に冷めた」とのこと。あの芸能人不倫ではありませんが、不倫をしても離婚はしない男性の大半は、これが本音なのかもしれません。

 作品に話を戻しますと。個人的にもっとも面白かったのは5篇目の「母の宿」。カップルの話ではなく、ラブホテルの経営者である55歳の鈴木久里子と、65歳の従業員、鷲谷冨美代を軸にした物語です。「この2人を中心に話を展開すれば、次作も上梓されるかもしれないし、ドラマ化もされるかも!?」と、心温まりながら拝読しました。

 ラブホテルの利用経験者であれば、自身のエピソードも一緒に思い出してしまう本作。筆者はコロナ禍以前に、夫と利用した日が頭に浮かびました。「夫婦でラブホテル?」と驚かれますが、ジェットバスに入りたかったのです。もちろんいたすことも想定内でしたが、ジェットバスに入って極上の眠り心地を手に入れて、気づけばチェックアウト時間を超過。夫は「どうせ延長料金を払うのであれば」と、再度、入浴を楽しんでいました。本作を読むと、みなさんも過去がよぎるかもしれません。

要チェック!

 花房先生は官能小説の第一人者として著名な作家名を冠した「第1回団鬼六賞」の大賞を受賞してデビューされているので、官能作家としてくくられがちですが、本作は官能というよりは恋愛要素が色濃く描かれています。過激すぎる性描写もないため、少しだけエロティックな気分を味わいたい人はぜひ一読を。真相が暴かれる、ラストの「愛の宿」まで一気読みできますよ。

内埜さくら
記事一覧
恋愛コラムニスト
これまでのインタビュー人数は3500人以上。無料の恋愛相談は年間200人以上の男女が利用、リピーターも多い(現在休止中。準備中のため近日中にブログにて開始を告知予定)。恋愛コメンテーターとして「ZIP!」(日本テレビ系)、「スッキリ」(同)、「バラいろダンディ」(MX-TV)、「5時に夢中!」(同)などのテレビやラジオ、雑誌に多数出演。

URL: https://ameblo.jp/sakura-ment

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


目黒蓮&今田美桜が優勢か 打倒・橋本環奈を意識しプロモ…キリンvsアサヒ「ビール新CM」攻防の行方は
 アサヒビールとキリンビールが真っ向勝負の様相を呈している。アサヒは3月14日、『アサヒスーパードライ クリスタル』の新...
2024-03-26 17:03 エンタメ
大谷翔平のパブリックイメージを壊した水原一平通訳の罪…小栗旬ら芸能人との交流にも冷たい視線
 ドジャースの大谷翔平(29)が、メジャー入りをした2018年から通訳として同行していた水原一平氏(39)。違法賭博に関...
2024-03-26 17:03 エンタメ
超鈍感力! 羽鳥の絶縁宣言を屁とも思わないスズ子とタケシは似た者同士
 歌手引退――。スズ子(趣里)はその決断を、愛子(このか)や大野(木野花)に伝えた。  羽鳥善一(草彅剛)に絶縁す...
桧山珠美 2024-03-26 15:40 エンタメ
「GTOリバイバル」注目の新人イケメンは?松嶋菜々子は本当に出るのか
 反町隆史主演「GTO」が26年ぶりに帰ってきます。反町演じる元ヤン教師・鬼塚英吉がさまざまな問題を解決する学園モノで、...
ドヤ顔のアユミとヘイヘイブギー歌唱シーン温存の理由がわかる回だった
 昭和31年、大みそか。第7回オールスター男女歌合戦当日。スズ子(趣里)は、楽しみに会場へと向かう。スズ子が楽屋で支度を...
桧山珠美 2024-03-22 14:30 エンタメ
最終回秒読み…スズ子はブレずにお人よし、NHKと沼袋勉の手腕いかに!?
 愛子(このか)は、翌日の体育の時間に足の早い転校生と競争することになっていた。しかし、勝てる見込みがなく、愛子は学校を...
桧山珠美 2024-03-21 16:07 エンタメ
和田勉が転生したら中村倫也に!? 強烈インパクトで霞んだ礼子娘の初登場
 東京ブギウギのヒットから9年、ブギブームも下火になってきつつある中、スズ子(趣里)や羽鳥善一(草彅剛)のブギは古いとい...
桧山珠美 2024-03-18 14:30 エンタメ
「光る君へ」主人公バージン喪失!大石静氏が描く平安エロ&バイオレンス
 NHK大河ドラマ「光る君へ」は、平安中期の貴族社会を舞台に、吉高由里子演じる主人公のまひろ(紫式部)の生涯を描くもので...
沢尻エリカ不死鳥の如く女優復帰!大衆は真似できぬ人生転落リアルショー
 2月25日、沢尻エリカの女優復帰作となった主演舞台『欲望という名の電車』が千秋楽を迎えました。  「『残念プロフ...
堺屋大地 2024-03-16 06:00 エンタメ
NHK大阪が誘拐未遂事件をぶち込んだのなぁぜなぁぜ? かつ丼コント?
 誘拐犯が捕まってから、愛子(このか)は3日間も学校を休んでいた。スズ子(趣里)は、学校に行くようにと言うが、愛子は友達...
桧山珠美 2024-03-15 14:30 エンタメ
“テレ朝ドラマ”常連・ホンモノの刑事よりも刑事な内藤剛志、降臨!
 大野(木野花)が受けた電話は、3万円払わなければ、愛子(このか)を誘拐するという脅しの電話だった。そして、警察には伝え...
桧山珠美 2024-03-13 14:30 エンタメ
りつ子スパークのラインダンス必見!ワクワクズキズキと笑顔が溢れる回
 羽鳥善一(草彅剛)作曲二千曲記念ビッグパーティーの日が近づいてくる。羽鳥はスズ子(趣里)たちに、パーティーで余興をして...
桧山珠美 2024-03-11 15:30 エンタメ
“ユーミンドラマ”で見せたクソ女の夏帆、そして金子大地と中島歩に注目!
この投稿をInstagramで見る 【公式】「ユーミンストーリーズ」オムニバス夜ド...
真木よう子“まっけんセクハラ発言”はわざと?昭和の価値観をエンタメ化説
 ドラマ『SP 警視庁警備部警護課第四係』(2007年/フジテレビ系)や『最高の離婚』(2013年/同)などでの演技が好...
堺屋大地 2024-03-09 06:00 エンタメ
第111回ブギウギの“三大なぁぜなぁぜ”…畑仕事する農家の手じゃない!
 梅吉(柳葉敏郎)が亡くなった。葬儀では松吉(木内義一)が号泣しながら、遺影の自慢をする。  そんな中、スズ子(趣...
桧山珠美 2024-03-08 15:50 エンタメ
死の間際までユーモア忘れず、父娘で歌った「父ちゃんブギ」
 久しぶりに香川に戻ったスズ子(趣里)は、梅吉(柳葉敏郎)が写真館を切り盛りし、繁盛していた話を聞く。梅吉が大切にしてい...
桧山珠美 2024-03-07 15:40 エンタメ