「期待を裏切る」ことの難しさ
審査員や視聴者も二人のネタの方向性やキャラクターが分かっているので、「期待を裏切る」ということは非常に難しいのだと思う。特に新山はさや香の漫才を一人でやっている感じがして(それが漫談というものだが)、「だったら二人の方が面白いのでは?」と感じてしまうのも理解できる。
加えて、新山のムーブがバラエティすぎて、審査員も心置きなく評価を下げやすかったのかもしれない。粗品に「酷評ですね!」といじられたときのキレっぷりも面白く、他の芸人だと可哀想に見えそうなところを見事に返していて流石だった。
吉住はずっと高クオリティなネタをR-1で披露しているが、その分、過去の本人のネタが面白いので「自分を超えられていない」と評価された感があった。お笑いはスポーツと違って、タイムや距離など定形的なものでは図れない。
見る人によって尺度が違うので、吉住のように高い標準のネタを作り続けていると、「去年のネタの方が好みだった」「一昨年のネタの方がよかった」と見る人によって評価が細分化されやすいのだ。吉住のライバルは吉住。
さらに今回は、審査員が「爆発」「裏切りの展開」みたいなものをかなり重視していたので、二人のネタの傾向では難しかったかもしれない。特にハリウッドザコシショウさんは綺麗なネタを評価しない傾向が強い。
「ばれてなかった」友田オレ。R-1はカオスさも面白い
その点、最年少で最も露出が少ない友田オレが「ばれていない」という強みを大いに発揮して、勝利をつかみ取ったのだ。こういう時勢や展開を掴むというのも、芸人の才能のひとつだ。
では、「R-1は売れていると不利なのか?」と思うかもしれない。僕の感覚で言うと、「決勝では不利。予選では大いに有利」だ。
先ほど上で語ったように、決勝では手口がばれているので不利なのは確か。ただ、R-1の予選だけで言うと、名が知れていると「かなり」勝ち上がりやすい。これはM-1やキングオブコントよりも「かなり」と言ってよい。
なぜならR-1の予選は死ぬほど重い。「この世の地獄を見たいならR-1の一回戦に行くべき」というくらい重い。誰も笑わない。
R-1の一回戦でウケるのは認知度が高い芸人か、それこそ決勝にまで上がれるような力を持った芸人のみ。名が知れていると重い空気をひっくり返せるので勝ち上がりやすいが、決勝では「有名」が弱点になり負けやすいという何とも皮肉な大会だ。
お笑い賞レースといえば「M-1」のイメージがある人も多いと思うが、R-1は予選のカオスさも含めて面白い。興味を持った人は、予選も合わせて楽しんでみてほしい。
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