地獄に堕ちてもいい
ーー旅行はやっぱり無理かな? 伊豆あたりなら一泊で楽しめるよ。
ーーそうね…でも、今の家庭の状況を考えると旅行は厳しいの…ごめんなさい。
ーー僕は直美さんが好きだ…おそらく、アニキよりも愛してる。
ーー私も好き…ずっと一緒にいたい。
ーー直美さんと一緒なら、地獄に堕ちてもいい。
ーー地獄…?
ーーああ、時々思うんだ。全てを捨てて、2人だけでどこかの田舎町で生きていけたら、どんなに幸せだろうって。
ーーダメよ。娘さんだってお孫さんを産んだばかりなんだから…。
ーー娘には夫もいるし、近所にはアニキやオヤジたちもいる。認知症が進んでも、不動産収入は入るし、資産だってアニキが守ってくれている。僕らがいなくなっても、ちゃんと生きていけるさ」
しみじみと告げる浩介さんを見ながら、直美さんは「この人と一緒に生きられたら、どんなに批難されても、地獄に堕ちてもいい」と思ったそうだ。
まとまったらお金を手にしたら…
直美さんは語る。
「今、浩介さんと将来のことを真剣に考えているんです。まずお義父さんが死んだら遺産が入る。私は長男の嫁であるとともに、お義父さんの養女としての手続きもとっています。そして、浩介さんにも財産が入る…。
まとまったお金を手にしたら、夫に離婚を切り出すか、何も言わず浩介さんと2人で見知らぬ土地に駆け落ちしたいなって…。
私はパートでも何でも働くつもりですし、浩介さんには水道修理の技術がある。家族にとっては最悪の事態でしょうが、毒を食らわば皿まで。とことん地獄に堕ちる覚悟で不倫を続けています。
明日のことなどわかりません。だからこそ今、浩介さんとの愛を貫きたいんです。私にとって、おそらく最後の恋愛になるでしょうね。どんな試練にも立ち向かうつもりです」
そこまで言うと、直美さんは切なげに、しかし、幸せを滲ませながら微笑んだ。
その表情には女の覚悟が宿っている。
「彼となら地獄に堕ちてもいい」と言える男性と巡り合った直美さん。
筆者は、彼女の幸せを祈るばかりだ。
(了)
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