越路吹雪を熱唱する人物は…
そのうち、カラオケで越路吹雪の『ろくでなし』が流れてきたという。
菜々美さんは続ける。
「『ろくでなし』はシャンソンが好きな私の母の十八番。家族や仲間内のカラオケ大会では必ず母が歌う思い入れのあるナンバーです。
とても歌唱力があり、とっさに視線を向けると、アラフォーと思しきスレンダーな男性客がスポットライトの下で歌っていました。
赤いチャイナドレス姿に短髪の彼は、薄いメイクながら彫りの深い顔が魅力的なイケオジ。そのうえ、深いスリットから見える脚がほっそりとしてキレイ。店内は歓声に包まれました。それに応じるように、彼はドレスの裾をチラリとめくって見せるんです(笑)。ベージュのストッキングごしに見える深紅のレースが、これまた艶っぽくて…」
ビジュアルと歌唱力、サービス精神に、菜々美さんは大きな感動を覚えた。
「歌い終わると、大歓声が沸き起こりました。ほろ酔いの私も、感激で大きな拍手をしていたんです」
本来だったら、ここで盛り上がって終わりのはずだったが、思わぬことが起こった。夜中にも関わらず、塩川さんのスマホが鳴ったのだ。
2人でカウンターに
「一度、店外に出た塩川さんは『菜々美ちゃん、ごめん。仕事でトラブルがあったようだ。僕は行かなきゃいけないが、君はもう少し楽しんでいきなさい』とママに呑み代を払い、私にはタクシー代を握らせて店を出ていったんです。
結果、ママは『せっかく来てくれたんから、もう少し吞んでいって』と、『ろくでなし』を歌っていた彼を紹介してくれて…」
2人はカウンターに並んで、呑みはじめた。
――はじめまして、塩川さんの連れの菜々美と申します。
私はいつもの習慣で、店の名刺を渡したんです。
――ありがとう、直樹と申します。この店ではナンシーって呼んでね。
直樹さんはオネエ言葉ですが、丁重に名刺を受け取ってくれました。
――歌がお上手で聞き入ってしまいました。ろくでなしは母の十八番なので、特別な思い入れがあるんです。
――まあ、お母様、素敵な趣味ね。私も大好きな歌なのよ。
――あの…このようなお店は初めてで、失礼な質問かもしれませんが、いつもオネエ言葉なんですか?
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