蚊とは若さの象徴だ
「最近、蚊にすっごい刺されるんです! もう10月なのに!」
「寝てるとプ〜ンと来ますー」
テレビのニュース番組でどう見ても20代と思しき男女が、蚊について街頭インタビューに答えていた。毎年「今年は異常気象」と言われ続けている気がするが、2025年の夏も暑かった。暑すぎて夏の出番を失った蚊が、秋と呼ばれる季節になって出没しているらしい。
(はて…? これは日本のニュースだよね…?? 蚊なんていたっけ???)
疑問符が頭の中に飛び交うふりをしている私は、更年期真っ只中のおばさんである。40歳になったあたりから薄々気づいてはいたが、蚊に刺されなくなっている。
(ふーん、私は東京住まいだもんね。都会に蚊なんていないんだもん)
20代まで住んでいた、出身地の静岡県では信じられないくらい蚊に刺されていた。自然も多く、エアコンも不要だった今から数十年前。網戸にして就寝しても、アイツら(蚊)は網の目をくぐり抜けて、民家に侵入してきた。まぶた周辺を刺されて、鏡を見ると『お岩さん』のように目が腫れていた朝。蚊に刺されると痒くて、膨らんだ箇所に爪で碁盤の目の跡をつけたものだ。プ〜ン、と耳元をアイツらが通過する音に反応して、飛び起きたり。小学生の頃、祖父母の家にいると私ばかりが蚊に刺されて不満を漏らしていた。ああ、懐かしい。
そんな蚊に好かれまくった時期を経て、今は蚊に見向きもされなくなった。理由は分かっている。年を取ったのだ。若いうちは新陳代謝も活発で、血液もサラサラ。例えるのなら切りたての刺身で握った大トロ。でも年を重ねるに連れて、衰える体調とドロドロになっていく血液。最近ではあまり見なくなったけれど、回転寿司で誰にも食べられず、レーンを何周もして色が変わった大トロのものだろう。そんな寿司を並べられたら、迷わず前者を食べる。刺されまくっていた時期は嫌悪感しかなかったけれど、蚊に刺されるとは「あんた、若いよ!」という正直な意見の象徴だった。
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