M-1グランプリ優勝の「たくろう」に5年半前、徹底して注意したこと
【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#272
たくろう
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先日の「M-1グランプリ2025」で栄冠を勝ち取った、たくろう。2021年4月放送の私の「プロフェッショナル~仕事の流儀~」で密着取材中、たまたまネタ見せに来たのが、たくろうとツートライブでした。そのツートライブが5月に「THE SECOND」で優勝。たくろうも続き、うれしい限りです。
よく声の通るきむら君と入学時から今の独特の間と豊かな表情表現の赤木君はNSCの先輩後輩。きむら君は赤木君を紹介され「こんなオモロいヤツおんねや!」と思ったそうで、私も赤木君はいい相方を見つければ売れると思っていました。
関西のコンテストでは常に優勝候補に挙がりつつ「おもしろいネタやねんけど……」と、悔しい結果が続いていました。
その大きな要因に赤木君のおもしろさでもある“ボソボソしゃべり”がありました。声量、特に語尾が聞き取りにくくて“ボソボソしゃべり”のおもしろさを強調するつもりが、かえって足を引っ張っていたのです。プロフェッショナルに収録されたネタ見せ風景でも「どんなにオモロいこと言うてもお客さんが聞き取れないと、笑いにはつながらへんから、意識的にでも語尾をしっかり言って。お客さんに全ての音を聞きとらすように」と注意を徹底しました。
取材から5年たち、課題をクリアしてバージョンアップしてくれました。具体的に言うと、これまでのきむら君のネタふり→赤木君のボソボソボケ→ツッコミ、というオーソドックスな構成から、むちゃブリ(ボケA)→思いつきのむちゃな答え(ボケB)と、ツッコミを省いた、たくろうらしい「ダブルボケ」の形にして、説明をカット。赤木君のスローなしゃべりでも十分なボケ数を確保しました。それまで無理やりで意味不明な部分が多かった赤木君のボケが、むちゃブリに“仕方なく”意味不明なボケを言うという必然性が生まれ、より言葉に力が出ました。
M-1の翌日、きむら君から優勝報告の電話をもらいました。「(赤木君の)語尾ハッキリ聞こえたぞ!」と言うと、赤木君のしゃべりを生かすために1年ほど前から取り組んできたとのこと。「僕らはエッジの利いたツッコミもインパクトの強いボケもできませんから、目の前のお客さんに笑ってもらうことだけ考えてます」と原点回帰を強調。「お世話になったみなさんに感謝しかありません。これからも劇場に出続けたいです」とうれしいことを言ってくれました。
赤木君は「もうアルバイトをしたくない」と言ってましたが、バイトをする暇がなくなるほど仕事が増えることでしょう。
(本多正識/漫才作家)
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