すいかばかと呼ばれる男<3>「水果」でささやかな夏の贅沢を

Koji Takano フォトグラファー
更新日:2022-07-23 06:00
投稿日:2022-07-23 06:00

「まずは試食してからね」

 6月の半ばから売り出し日の問い合わせの電話は引きも切らない勢いでかかってくるという。10時の開店よりずいぶん前からお客さんがやって来た。

「まずは試食してからね。買うか買わないか、どれを買うか考えな」

 すいかばかのすいか節が始まった。2022年の勝負がスタートしたようだ。

 夜明けのセレブ、山吹セレブ、甘光(かんこう)セレブ、名水セレブ、ブラックレモン、名水甲羅(めいすいコーラ)、戦水甘(せんすいかん)、戦水甘ブラックレモン、戦水甘ゴールド、戦水甘ゼブラ、戦水甘メロカ、名水糖度。奇妙な名前には全て小林さんの思いが込められている。

 12種類のすいかは一度に全てが売り出されるわけではないので、訪れるたびに違うすいかに出合える。

 どの種類のすいかでも基本的には大きい方が旨いという。ほとんどの品種が価格は1キロ550円の明朗会計だ。

すいかバカの始まりは…

 並んだすいかに値札はついていない。買う時に秤に乗せて値段を決めるが、選ぶ際に「あれはいくら?」などと尋ねるお客はひとりもいない。

「値段ではなく旨いすいかが食べたい気持ちだけで来てくれるお客さんが多くて、本当にありがたい話ですよ」。小林さんははにかみながら続ける。

「『高いね』と言うお客に対し、『わかりました、オマケだ!』なんて始めの頃はやってたけど、シーズンが終わって売り上げを見れば、散々苦労を重ねてたったこれだけの稼ぎか? って。やさぐれたこともありました(苦笑)。それからですね、『高い? それなら安くて旨くないやつを他で買いな!』って返して、『バカじゃないの』と言われるようになったのは(笑)」

まずいすいかは死んでも作れない

 啖呵(たんか)を切るからには、まずいすいかは死んでも作れないーー。自分で自分を追い込んでもいたという。

「何年経っても庶民の給料は上がらないこんな時代ですからね。ちょっと高いと思う人もいるでしょう。でもこんな時代だからこそ、家族でほんのささやかな贅沢を楽しんでもらうのが、私の目的です。そう、目標ではなく目的なんですよ」

Koji Takano
記事一覧
フォトグラファー
1963年神奈川県横須賀市生まれ。日芸写真学科卒業後、外国航路の船乗りとして世界を股にかけ、出版社勤務を経て、現在はフリーのフォトグラファーとして活動。近著は写真集「東京の風に漂う」(銀河出版)。
http://www.kojitakano.com/

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


見ず知らずの人に電車代を貸せる? 一生大切にしたい人が分かった話
 みなさんは人を信用しやすい方ですか? それとも疑い深い方ですか?  私はどちらかといえば後者で、人を簡単には信用で...
切り取られた街を見上げる 「もっと見たい」は人間の性かな
 ふと見上げたら、切り取られた街が隙間からのぞいていた。  これもチラリズムなのか。全体を見せられるよりも刺激され...
海外駐在妻の驚愕実態!閉鎖的な女のドロドロ、とかくママ友が面倒くさい
 海外駐在ママというと、どこか華やかで羨ましいイメージがありますよね。でも、中には、現地でのママ友との面倒くさい関係に疲...
パワハラ認定は回避を…叱り上手な人が実践するコツ5つ&間違った叱り方
 人を叱るというのは、意外と難しいものですよね。部下や後輩が失敗した時「ビシッと言ってやろう」と思いながらも、パワハラだ...
「俺を撮ってくれよ」な“たまたま”様、地を這うカメラマン冥利です
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
球根いつ仕込む?「秋」の今でしょ!植えっぱなしにオススメの花は7種類
 猫店長「さぶ」率いる我がお花屋は、神奈川の真ん中の片田舎で商売をさせていただいておりますが、今年も悩ましい秋でございま...
とことん落ちないと浮上できない 放っておいてあげる優しさ
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
「花屋前にいる」「どこ?どこにでもいる顔だから」実は傷つきLINE3選
 誰かの何気ない一言に深く心が傷ついた経験は誰しもあるはず。  相手の性格にもよりますが、ほとんどは相手に悪気がな...
お疲れ様はNG、お元気様はOKのナゼ…職場のうざいローカルルール5選
 社会一般ではない通じない「職場独特のローカルルール」が存在する会社って多いですよね。入社したての社員からすれば、ドン引...
青空に踏切の音が映える 季節は秋でも絶対に手放せないもの
 ここ数年ですっかり浸透したものに男性の日傘がある。 「男が日傘なんて」という謎の気負いも、死を覚悟する日差しには...
たまたまもゴロンと全開!幸せそうなにゃんたま様に昭和CMを思ふ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
中年のババア、もとい「中年女性」になった私たちへ
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
「聞いてよ!」「で、結論は?」せっかち君のLINEはタイパ重視ですって
 世の中には、1秒でも時間を節約したい「超せっかちな人」が存在します。なぜ生き急いでいるのかはわかりませんが、とにかく少...
#1 芸能界に執着する35歳女の密かな楽しみ。裏アカで吐き出す腹黒い本音
「いらっしゃい、シゲさん今日は早いんだね」  阿佐ヶ谷駅の北口の飲み屋街・スターロードにひっそりたたずむ小さなスナ...
平日夜8時、話題のオーケー銀座店の惣菜コーナーに行き完全敗北した件
 10月17日、東京・銀座3丁目のマロニエゲート銀座2内に「オーケー銀座店」がオープンして話題になっていますね。銀座の一...
#3「バカにされてる?」元彼のイヤミがつらい。女が椎名林檎を歌う理由
【#1、#2のあらすじ】  阿佐ヶ谷のスナックに勤務している紘子は、役者を目指しながらもくすぶっている日々。そんな...