ストーカー化した女性客
――情熱的なひと時だったんですね。続けてください。
「幸せな週末を過ごした3カ月後、事務所から突然連絡が入りました。人気セラピストに心酔する女性客が、隙を見て彼のバッグを物色する騒ぎがあったそうなんです」
――えっ、お客様がセラピストのバッグを?
「はい、女性客はその人気セラピストの本名や住所を知りたかったようで、免許証をスマホで撮影したと聞きました。しかも妻子がいることもわかり、嫉妬心から『独身って言ったじゃない! 今までの指名料を返せ!』とつかみかかってきたそうで……」
――怖いですね。セラピストに恋するあまり、ストーカーとなってしまったんですね。
「はい……。事務所側は『ジン君も十分気をつけて』とのことでしたが、もし自分が同じ目に遭ったらと思うとぞっとしますね。その女性客はSNSに彼の本名と住所までアップし、ネットは大炎上したそうです」
セラピストを辞める決意を
――それはひどい。ご家族もいるというのに……。
「事務所スタッフの話によると、彼は家族に内緒で女風の仕事をしていたため、家族関係も悪くなり、奥さんとは離婚裁判、女性客には名誉棄損、その他の法的手段で損害賠償が請求できないか弁護士に相談しているようです。
無関係のご家族の顔写真もネットにさらされ……最悪の末路ですね。この事件をきっかけに、僕は今月でセラピストを辞める決心がつきました。
せっかく人気が出てきた矢先に……と思うかもしれませんが、実は新しい命を授かったんです」
セラピストとしての経験は宝物
――なんと、それはおめでとうございます。
「ありがとうございます。順番は逆になりましたが、『授かり婚』ということで、互いの両親に挨拶に行きました。久しぶりにミホと抱き合い、幸せを噛みしめたところでの妊娠……同時に、ストーカー事件を知り、これは虫の知らせだなと思いました。
わずかですが、セラピストとしての収入も得ましたから、ミホと生まれてくる子供のために使う予定です。短期間でしたが、セラピストとして働いた経験は、僕にとって宝物です」
◇ ◇ ◇
ジンさんは柔らかな笑みを浮かべた。
セラピストとしての経験は宝物――。
これからは「家族」という宝物がもうひとつ増えるだろう。女風という未知の世界の取材を快く受けてくれたジンさんの幸せを願ってやまない筆者だった。
(了)
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