#1 10代で絶頂期の30歳元アイドル、まだ終わらないと信じる女の日常

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2023-11-18 06:00
投稿日:2023-11-18 06:00

【立川の女・黒澤麻美30歳 #1】

 JR立川駅から徒歩で20分ほど。立飛のららぽーとからも、モノレールの駅からも、微妙に遠い住宅街の狭小住宅が麻美の現在地である。

 午後3時。隣の家に接近する小さなベランダで、麻美は1日1本と決めている煙草を消しながら、重い腰を上げた。

「そろそろ、すずのお迎えの時間……」

 6年前、麻美は電機メーカーに勤める夫・文隆と結婚。現在はそれを機に購入した5000万円ほどの建売戸建てに住んでいる。

 可もなく不可もないちいさなお城。だが、かつて目黒のマンションに住んでいた麻美にとって、如何せん刺激が不足していた。

 この街・立川は確かに緑も多く、生活するに事欠かない。

 現在、4歳の娘の子育てをするには最適の場所であると思う。

「ママー」

 バスの送迎地点である公園の駐車場で、麻美は最愛の娘・鈴音を出迎えた。

「先生、ありがとうございます」

「鈴音ちゃん、今日もみんなの前でお歌で楽しませてくれましたよ」

「プリキュアのうた、うたったの!」

 麻美によく似た大きな瞳と愛くるしい表情で微笑む鈴音。

 彼女は幼稚園でも愛嬌の良さで人気者だという。教諭やママ友からも「本当に可愛らしい美人さんね」と毎日のように声をかけられ、いつもご機嫌だ。

「すずね、大きくなったらアイドルになるの」

 鈴音は人気アニメの主題歌を舌ったらずな言葉で歌いながら将来の夢を告げた。その様子は無邪気そのものだ。

 母が、かつてその存在であったことを知らずに……。

アイドルブームの中、武道館に立ったことも

《たわらば@まみりん》。それは、麻美がかつて名乗っていた名前だ。

 17歳から23歳まで彼女は、大手芸能事務所に所属するアイドルグループ『TOWER LOVER』、略して“たわらば”の一員だった。

 加入した2010年頃は、AKB48をはじめ、ももいろクローバーZやSUPER☆GiRLS、ぱすぽ☆など、女性アイドルグループが乱立し、戦国時代と呼ばれていた時期。

 麻美の所属する“たわらば”も、そのうちのひとつ。そこそこ人気で、武道館に立ち、飲料メーカーのCMにグループで出演したこともある。

 10人組のグループ内では、3、4番手の人気のメンバーでそれなりのファンもいた。

 しかし、ブームが去って人気が低迷し、解散コンサートを迎えると……。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


家庭の派閥争い…夫の“ポカリ甘すぎ、アクエリアス!”に猛反対する妻
 混沌とした世の中。世界で起こっている戦争や紛争だけでなく、会社やネット上のコミュニティーでもあらゆる「派閥争い」が繰り...
40代が自分の老いを実感した切ない瞬間4つ 運動は得意だったのに(涙)
 年齢を重ねると、体の老いを実感する瞬間が増えてきますよね。特に若い頃に運動が得意だった人は、頭では動けると思っているの...
ストリッパー、Airpodsおじさんに学ぶ。
 AirPodsをしたサラリーマンのおじさんを通勤電車で見た瞬間、私はその後ろ姿にぎゅんと心惹かれた。  なにそれ...
百均は飽きた…目的地はスタンダードプロダクツ!プチ模様替え厳選4商品
「普段の生活で使う、日用品をちょっと楽しく。」そんな思いを込めて生まれたStandard Products(スタンダード...
別れる時くらい言いたいことを言う? それとも…
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
恋愛運は大吉にゃ♡ ご利益抜群な激レア三毛“たまたま”を激写!
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
恋愛も金運も良縁GETするならこれ!強靭的に長生きするサマースイトピー
「物価上昇が止まりません。どうしていいか分からん」と嘆いている方、多いと思います。  ワタクシもご多分に漏れず、仕入れ...
上司「あそこのチゲ鍋はおいしいにちげーねー」喜ばせるダジャレ返しは?
 昭和生まれの人はおおむねダジャレ好き。  特に職場のおじさん世代は、LINEでもダジャレを送ってくる人がいます。...
わ、気まず!ママ友の集まりに旦那連れで来る人なぁぜなぁぜ
 ママ友同士で約束するランチ会。子育ての話や夫の話で盛り上がりますよね! ところが「旦那連れ」でママたちとのランチ会に参...
【難易度高め】にゃんにゃん間違い探し、全5カ所、わかるかにゃ?
 【A】と【B】のふたつの絵には、違いが5カ所あります。さてどこが違うでしょうか?  難易度はかなり高めなので、目...
【1分でOK フェロモンジャッジ】春は引き算が鍵!貴女が幸せになる香り
 異動や引っ越しなどで環境が変わる人も多いこの時期は、生活を変えるいいチャンスです。普段、なんとなく続けてしまっている悪...
【漫画】しっぽのお医者さん~ねこ医院長のぽかぽか日記(番外・出張編)
【番外・出張編】  ここはある町の小さな動物病院──。  この「春山動物病院」では、「院長」と呼ばれて振り向...
料理下手なワーママの救世主 予約待ちで契約したつくりおき.jpなのに!
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
“たまたま”はいくつあるにゃ? 茶トラ軍団のおやつタイム
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
隅田川にかかる橋の上でしばらくの間立ち止まってみる
 隅田川にかかる橋の上でしばらくの間立ち止まってみる。  冷たい風がビュービューと吹き抜ける音を聴く。
かまととの由来はオンナと蒲鉾! 類義語にぶりっこ、はまちっこ
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...