母親は夢を諦めなきゃダメですか?夫を「支えてあげて」の言葉が悔しい

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-07-13 06:00
投稿日:2024-07-13 06:00

お店に登場したのはかつての仲間だった

「――あれ、今日はエリナ先生も一緒?」

 席に通されしばらく待っていると、絵里奈も知った顔が声をかけて来た。

「有井ちゃん…里山先生?」

 それはかつて共に切磋琢磨していた仲間や漫画家の先生たちだった。待ち合わせて来たのか、集団の一番背後には拓郎がいる。暗めの照明で顔色は判らないが、表情で蒼白しているように見えた。

 ――漫画家仲間の飲み会、ってこと?

「パパー」

 ウミとナミが拓郎を見つけ、一直線に駆け寄った。そうなると、彼も受け入れざるを得ない。

「もしや、今日はエリナ先生もサプライズで参戦ってことですか?」

 旧友の一人がいたずらっぽく絵里奈に尋ねた。

私だけ除け者にされていた

「え、あ…まあ」

「たくろー先生からエリナ先生のことはよく聞いていましたから、ずっと会いたかったんですよ! たくろー先生に連れて来るように言ったけど、エリナ先生は子供が大好きすぎて漫画とは縁切ったって言うから」

「そりゃ子供は大好きだけど…縁を切ったわけじゃ」

 案の定拓郎は、絵里奈が泣く泣く筆を折った後も、ペンネームを変えて、密かに漫画家活動を続けていたらしい。

 いつ購入したかさえも知らないMacBook Proを片手に、仕事終わりに深夜のファミレスで描き続け、今もマイペースにネットで活動中なのだそうだ。

 このような定例の仲間との交流も欠かさないという。

「これからも支えてあげてね」

 それに対しての愚痴を隣に座った旧友にポロリと吐き出したところ、彼は言った。

「まぁ、たくろー先生はさ、描かなきゃ生きてられない漫画バカだから仕方ないですよね。今はいつでもどこでも描けて、発表もできる時代で良かったですね。これからも先生を支えてあげてくださいね」

 拓郎は、絵里奈の顔色をチラチラ窺っていた。少し離れた席で、これ見よがしに娘たちをあやしながら。

 後ろめたいことをしていた自覚はあるのだろう。拓郎もまた、絵里奈のくすぶる炎に気づいていた。

 それだけに、裏切られた感覚はよりいっそう絵里奈の絶望を深く抉(えぐ)っていた。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


子育ては「完璧主義」だと詰む! SNSの“キラキラママ”に振り回されないためには?
 セックスレスやセルフプレジャー、夫婦の在り方をテーマにブログやコラムを執筆している豆木メイです。
小馬鹿にする人って実は…。隠された心理とメンタルを死守するための3つの対処法
 会話の節々で「私のことを小馬鹿にしてる…?」と感じるような言動をとってくる人、いますよね。今回は、他人を小馬鹿にする人...
「寝香水」って知ってる?【10月前半】調香師が睡眠の質を高めるアロマをタイプ別に解説
 少しずつ寒くなる季節の変わり目は、しっかり睡眠をとって自律神経を整えましょう。今回は、調香師ならではの裏ワザ【幸福感に...
秋の祭りを共に過ごす時間
 このひと時が宝物だなって気が付くのは、  まだまだ先の話。
老化、苦労、ボトックスとも無縁な御年50のハローキティちゃん
 踊り子として舞台に立ち、エッセイも書く新井見枝香さんの月イチ連載です。アラフォーいろいろあるけど、楽しいよ…!
見せ場もばっちりにゃん! プロレスごっこの“たまたま”が可愛すぎる~
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
ほっこり癒し漫画/第82回「ウシオの大変身」
【連載第82回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
「破瓜」って何歳? バージン喪失の意味もある!?
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
昭和レトロぎゃふん!「ほの字のカレのため、がんばりマッスル」あえての昭和言葉がエモいLINE3選
 令和の今、昭和は遥か昔の時代に感じますよね。40代女性の皆さんは、必死に「昭和感」が出ないよう、細心の注意を払ってきた...
令和のコメ不足、その手があった!価格高騰の秋も使える我が家の対策6選
 新米シーズンに突入し、少し落ち着きを見せているものの、この夏みんなが気になって仕方なかったニュースといえば、令和の米騒...
刺さるわあ…親の“結婚しろ圧”LINE3選。OVER30が涙した「いつまでも元気でいられないから」
 30代半ばを超えると、親からの結婚に対する圧もより一層強くなってきますよね。  LINEに忍ばせた小さなプレッシャー...
自己顕示欲バンザイ! スナックママが教える「自分らしく生きる」ヒント
 みなさん、SNSとかで目立つ人は好きですか? 私はついこの間まで、正直めちゃくちゃ苦手でした。  でも先日、スナ...
東京のごちゃごちゃに疲れる…貸切コンパクトボートで“泡飲み”東京湾クルージングが当たりだった
 都会とは、長年いると何をしていいのか分からなくなる場所である。おいしいご飯もお酒も、どの街にいても味わえる。新しいスポ...
イイ男が大集合♡ 素敵“たまたま”がいっぱいで目の焦点が合わない~!
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
面倒な“かまってLINE”への返信うざ。寂しがり屋のド定番「寝てないアピ」は華麗にスルーがよろし
 いつも話題の中心にいたくて、寂しがりやな「かまってちゃん」。時々ならいいですが、LINEメッセージでもかまってアピール...
諦めないで!猫と共に送る安全な植物生活。花屋が実践する「3つの心得と6つの対策」
 植物は我々の心豊かな生活を送る癒しですが、残念ながら猫にとって有害なものはたくさんあります。  種類によっては中毒症...