いつものマンションが何かおかしい…
いくらとウニ、ホタテがふんだんに入った海鮮丼といかめし、ザンギなどを買い込み、心弾ませて帰る先は、初台駅から徒歩5分の位置にある1LDK、築15年ほどの中古分譲マンションだ。
ここは1年前に購入したばかりの自分の城。不動産業の知人を通じ比較的割安で手に入れた。
35平米ほどの部屋は少々手狭に感じることもあるが、一人で暮らすにはちょうどいい。小さいがベランダもあり、そこから西新宿の夜景を眺めながらビールを傾けるのが咲子の至福の時間だ。
しかも今晩は、北海道のご馳走が満載だ。口内にその味を思い浮かべながら、駐輪場にバイクを止める。そして、足取り軽く正面玄関から入り、オートロックを解除したその時だった。
――…ん?
背後に聞こえる不穏な足音は
自動ドアが開いたタイミングで、背後から何者かが近づいて来る気配を感じた。
誰かがマンションに入ってきたようだった。背格好からして男だろう。
東京に暮らし始めて20年の勘…。
咲子はエレベーターに向かう前に、まず立ち止まる。先を譲ろうとするためだ。手にはスマホを握りしめている。足音は徐々に近づいて来た。
…すると、男は咲子の肩を掴んだ。
「!」
「姉ちゃん!」
それは、耳の奥の遠い記憶にある声だった。
「…将平」
振り向く。5歳年下の弟がそこにいた。
17年間、疎遠だった弟の訪問
再会は17年ぶりであった。実家や親戚には、電話やLINEを知らせていない。何かの時のために住所だけは伝えてあるため、一方的に年賀状は送られてくるが、それ以外のやりとりはほぼ断っている。
彼の結婚式にも出ていない。帰郷も一切していない。
「ひさしぶり。よかった、姉ちゃん生きていた」
「相変わらず失礼だね」
「とにかくさ、外でずっと待ってたんだよ。トイレ貸してくんない?」
「…」
この場所で立ち話をするわけにもいかず、咲子は将平を部屋に迎え入れることにした。
突然、遠い故郷からこの場所までやってきたことに、どこか嫌な予感をはらみながら。
【#2へつづく:将平から聞かされた咲子の地元での評判とは】
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