毒親の介護をしたくない 実家から逃げた女が「決別」のため払った金額は

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-09-07 10:11
投稿日:2024-09-07 06:00

揺れ動く親への気持ち…咲子がとった行動は

 数日後、咲子は両親の口座に1490万円を振り込んだ。幼稚園から大学に至るまでの学費を計算し、それに色を付けた金額である。

 計算をしているうちに、自身もなんだかんだで両親から多くの恩恵を受けていることを実感し、揺れ動いた部分はあった。だが、情にほだされることなくこれを機会にキッパリと線引きをする。

 実は、一人きりの老後に備え、若い頃から多少の貯蓄や投資をしていた。今回“返済する”のはその一部だ。今後もしものことがあっても、このマンションを売る想定くらいは当然考えている。

『これでいい? もう私に関わらないで』

 将平へ送り返すパンフレットに添えた手紙に、そんな言葉をしたためた。両親へ送金の旨ももちろん書いてある。

「さて…」

 有休をとり、新宿郵便局の書留窓口で書類を送ったすぐ後、咲子はすぐに都庁へ向かった。

自分の幸せはここにあるんだ

 手にしているのは、コロナ中に期限切れになったパスポート。

 ――北海道もいいけど、北欧のお城もいいよなぁ。

 雪に覆われた城の美しい景色、クラシックな街並みを思い浮かべ、数年前に公開された外国のアニメ映画の主人公になった気分に酔いしれる。

 見上げるのはお城のようにそびえるツインタワー。

 自分の幸せはここにある。

 そして、今、自分は自分の足でどこにでも行ける。

 咲子は、すべてから解き放たれた気分でパスポートの更新をしに、一歩前へ踏み出したのだった。

 Fin.

ミドリマチ
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作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

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