女はお嫁さん要員? 年収800万でも「行き遅れ」と見下される田舎の地獄

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-09-07 10:08
投稿日:2024-09-07 06:00

咲子の心にドロドロとした感情が

 将平は得意げに煙草を取り出し、おもむろに火をつけようとした。咲子は静かにそれを取り上げる。

「この部屋、禁煙なの」

「悪いね。じゃ、ベランダ行くわ」

「ベランダ喫煙もマンションで禁止されてるから」

 ブツブツ文句を言いながら彼はお手洗いに向かった。本当はお手洗いでも喫煙して欲しくなかったが、とにかく一時的にでもどこかに行ってもらいたかった。

 ――将平のいう通り、何かを成したわけでもないし、窮屈な生活だけれど…。

 咲子の心の中に、ドロドロとなにかがうごめく。

ついに怒りが爆発する

 ――確かに、今日みたいに、子どもが理由で約束をドタキャンされた日は、世間から置き去りにされたような感覚になることもあるけれど…。

 しかし、ここまで言われる筋合いはないと思った。

 自分の手に届く範囲内で、幸せに、好きに生きているだけなのに、なぜこんなことを言われなければならないのだろう。

 誰にも迷惑をかけていないはずだ。

「ふぃー、すっきりした」

 将平がお手洗いから出てきた。鼻につく不快な匂いを漂わせて。

「…ねえ、帰ってくれないかな」

 気がつけば、本心が漏れ出てしまっていた。

「は? 何を今さら。家族だから助け合いは当然だろ」

 当然のようにソファに戻る彼に、実家の父親の陰を見る。

 男尊女卑、家父長制、田舎の嫌なところが全て詰まった実家。改めて、縁を切ってよかったとしみじみと感じる。

「ここは私の家。泊る場所なら自腹で何とかしてよ。年収相当あるんでしょ」

 衝動のまま、咲子は彼のスーツケースをドアの外に押しやっていた。

「なにすんだよ!」

金輪際、帰らない決心ができた

 きっと彼は故郷に帰ったら、姉のことをヒステリックな鬼婆に変貌していたと言いふらすだろう。独身の寂しさのあまり、と枕詞を添えて。

 しかし、そんなことはどうでもよかった。どうせもう故郷には帰らない。引っ越しても住所は金輪際教えないことを決意する。

 怒りは収まる気配はなかったが、決別の踏ん切りをつけてくれた将平を咲子はある意味有難く思うのだった。

#3へつづく:偉そうな態度の将平だが、その裏には…】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


万年夏休みなんて羨ましい! 木登り中のやんちゃ“たまたま”
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
我が子なのになぜ? 娘と気が合わない3つの理由と子育てが楽になる考え方
 人間同士には相性があり、親子だって相性が合わないこともあるでしょう。とくに、娘は母親と同性なので、余計に気になるのかも...
お地蔵さんのパワー
 街道の片隅で、どれだけの仏が力を合わせれば良い世の中になるのだろう。  日本全国津々浦々でも足りないの?
四字熟語「人三化七」読める? くれぐれも使い方にはご注意を
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
「大谷翔平です」はアレンジOK!? 初対面から好印象を抱いたLINEの面白い挨拶3つ
 LINE交換をしてから最初に送る内容は、意外と大切かもしれません。だって、ただの挨拶よりも面白い挨拶を送れば好印象を抱...
自分の年齢を言いたくない時は「98歳になるよ!」もアリ。困った時のスマートなかわし方6選
 40代を超えると、年齢はあまり言いたくないものになりませんか?(苦笑)年齢を聞かれた時には、スマートなかわし方を身に付...
幹事は多めに払うべき? 同窓会で見たちょっと切ない「友情とお金」の話
 ずっと続く友情っていいものですよね。大人になっても昔の友だちと飲みにいけるなんて幸せなことだなと思います。だけどスナッ...
【ゼクシィ付録】結婚予定はないけど買ってみた!「アフタヌーンティー」ポーチの実力は?
 結婚の「け」の字すらない状況なのに、こんなことをしていいのでしょうか。付録目当てでゼクシィを購入してしまいました!(汗...
メルカリか永久引き出し奥か。女友達からのいらない誕生日プレゼント6選
「誕生日プレゼントってもらえるだけで嬉しい♡」と、どんなものにも感激していたかわいい時代は、遥か昔。アラサー・アラフォー...
男社会で出世する女性は何が違うの? 特徴&今すぐ身に付けたい3つの習慣
 女性の社会進出はかなり進んできましたが、まだまだ男社会で出世する女性になるのはたやすい話ではないでしょう。では、どのよ...
「鏡も見たくなかった」対人恐怖症の筋肉マッチョが自分を好きになるまで
 日本で唯一のコンテスト主催団体による“生涯現役で魅力ある存在を目指す”ミスターコンテスト「Mr. Phoenix(ミス...
出費額は100万円!? なぜ筋肉マッチョは「ミスターコンテスト」に挑むのか
 女性の外見や内面の美を競うミスコンテスト(以下、ミスコン)。ルッキズムの議論が広がる昨今、ミスコンの意義を問う議論が絶...
記憶鮮明な阪神・淡路大震災発生前夜の“異変”。冬眠モードのカメが突然大騒ぎして…
 8月8日16時42分ごろ、日向灘を震源とする最大震度6弱の地震が発生。その後、気象庁が初めて「南海トラフ地震臨時情報(...
“たまたま”チェックに余念のない茶トラ君♡ 写真集の表紙になれるかな?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「妊娠アウティング」経験者たちのエピソード 悲劇はどうすれば防げたのか
 皆さんは、「妊娠アウティング」という言葉を知っていますか? もしかしたら、実際に被害を受けたことがある人もいるかもしれ...
あの人気観葉植物が地震を予知!? 植物の異変から事前兆候を察知する話
 テレビ画面に映し出される南海トラフの「巨大地震注意」の文字…。不安で心が押しつぶされそうになりますな。ワタクシが生...