セレブなママ友から予想外の一言が
数日後のある日。
「葵さんのお母さま」
授業参観で学校を訪れた昇降口にて、由香はつま先でスリッパを揃えていると、背後から声をかけられた。
「あら、鈴華さんの――」
「ごきげんよう」
由香は時折幼い頃の癖で、足で動作を行ってしまうことがある。はしたない姿を見られたとヒヤヒヤしながら振り向くも、気に留めていない様子の穏やかな笑顔に由香は安心した。
声の主は鈴華の母。この学園のOGで、夫は五大ローファームに勤務する弁護士だ。いつも姿勢が良く、彼女の腕にはいつも黒のバーキン30が当たり前のように提げられている。もちろん幼稚園から上がってきたママ友だ。
「伺いましたよ。葵さんのお母さま、最近愛舞さんのお母さまと仲がいいんですってね」
彼女から発せられる不本意な言葉に、由香は慌てて否定した。
「あ、いえ、葵が仲良くて、一度自宅に招待しただけですよ。手土産も持ってこなかったことにびっくりしましたけど」
「まぁ…」
一瞬、表情がよどんだような気がした。由香にはそれが“来良の非常識さにドン引きしている”ように見えた。
由香は昂り、思わず感情を共有したくなってしまう。
「しかも、下品なロゴのシャツでいらして。どう思います? 校長様がなぜあのようなご家庭の方とこの学校とのご縁を繋いだのか、私には不思議で不思議で」
眉毛を八の字に、嫌悪感を表して報告する。愚痴を言いあってスッキリしたい、その一心だった。
しかし――返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お二人は似たような雰囲気ですから」
「よくわかりませんが、お二人は似たような雰囲気ですから、合うと思うんですけどね」
その表情は、いつにも増して穏やかだった。由香はわけがわからない。
「似たような…って、どういうことでしょう?」
先日、来良にも同じことを言われたことを思い出し、由香は尋ねてしまう。
彼女は言葉を選んでいた。
モナリザを思わせる意味深な笑顔を伴って。そして、やっと回答を得る。
「強いて言えば、負けず嫌いなところでしょうか」
皮肉を羽毛で包んだような遠回しな苦言だ。
それは、直接的な嫌味よりも由香の心に深く刺さった。
【#3へつづく:「負けず嫌い」に含んだ意味を理解した由香は…】
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