夫に秘密で続けている「仕事」とは
「ママ、今日は一歩も外出てないの?」
「うん。暑かったし、夕飯はコストコで買った鶏肉やお野菜もあるし買い物はいいかなって…」
夜11時。夫の大輔は、息子たちが眠りについた頃にようやく帰ってきた。
ポストに溜まっていた郵便物の束をテーブルの上に投げるように置き、リビングに入るなりソファに一直線。どっしりと身長180cmの巨体を沈ませた。
「それはいいんだけど、よく家でずっとじっとしていられるなと思って」
「いろいろやることあるのよ。あっという間に一日が終わっちゃう」
「そうか。俺が忙しい分、ちゃんと家を守ってくれているのは有難いけど…。まぁ、外で働きたいならいつでも相談してくれよ。反対はしないから」
柔軟で寛容な姿勢を見せながらも、ところどころに漏れる男性本位の言動は、リベラル気取りの業界人あるあるだ。
私は乾いた笑みを浮かべながら、ダイニングテーブルに彼の大好物である唐揚げとポテトサラダを並べた。
「ありがとう。でもね、出版社に勤める友達からもらったデータ入力の仕事が、けっこうなお小遣いになるの」
「そっか、ママの名前で封書が来ていたのはそれか」
その言葉に私はヒヤリとしながら、彼の置いた手紙の束を探った。言う通り、出版社から私宛の封書が届いていた。
テレビ業界の話に耳を傾ける
「いただきまーす」
準備ができたところで大輔はすぐ席に着き、夕食をモリモリ食べ始めた。深夜、しかも脂っこい食べ物にもかかわらず、疲れなのか元ラガーマンだからなのか、アラフォーに足を踏み入れても衰え知らずの食欲だ。
「今日さ、M-1王者のあの芸人がさ、うちのADを怒鳴りつけててさぁ…」
「M-1王者って、あの?」
「うん。段取り悪かったのはウチらの責任だけど、天狗になっちゃってるんだろうな」
「ふうん…」
出版社からの封書は、「仕事」の支払い明細だった。それを確認しながら、大輔の仕事の愚痴に適当な相槌を打つ。私は冷えた缶ビールを彼の手元に置いた。
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