【大崎の女・石塚 華34歳 #2】
大崎の高層マンションに暮らす華は、テレビ局に勤める夫・大輔と二人の子供に囲まれ悠々自適な専業主婦生活を送っている。毎日テレビとネット三昧で暮らしているが、実は片手間で下世話な記事のライターをしていた。【前回はこちら】
◇ ◇ ◇
1記事を仕上げると入ってくるのは、スキマバイトを半日こなしたのと同じ程度の金額だ。
しかしながら、見知らぬ街のコンビニや町はずれの倉庫や港湾に出向かずとも、クーラーのかかった快適な部屋で、同様の金額が稼げる自分に、私は誇りを感じている。
どこかで誰かが言っていた。
『ネットのライターは、誰でもできる簡単なお仕事』だと。
「こたつ記事」ライターにもプライドがある
そんなことはない。
注目を集める切り口を提案して、サッと書き上げられる速さや、記事にできるネタを選別しながらテレビを見続けられるのは、執筆スキルやセンス、技術がなければできないはずだ。
私のようないわゆる「こたつライター」と括られる人の中には、本格的な取材記事の片手間で執筆している記者や、メディアを運営するための土台と割り切ってPVを稼いでいる人だっている。雑にまとめないでほしいと思う。
依頼されてたまにやる、コストコ商品紹介記事やドラマのレビュー記事も、ある意味取材をしているし、こたつ記事とは定義されたくない。
――まぁ結局は、何言われようとどうでもいいけど。私は所詮、お小遣い稼ぎだし…。
適当に仕事と向き合う自分を嗤いながら、私はテレビを横目にキーボードを叩く。今日もじっくり丁寧に淹れたコーヒーはおいしいし、休日に焼いた手作りパンは香ばしい。眺めも最高な部屋。優しい夫、元気でかわいい息子たち。
今の生活の不満は、リビングの大きな窓から差し込む朝陽が眩しすぎるくらいだ。季節はもう秋なのに、今もクーラーは絶賛稼働中である。
記事を書き終え、のんびりソファに座っていると、編集長の礼香から私が先日書いた「秋アニメ声優イケメン5選」の記事がPV数で1位を獲ったという連絡が入った。
見覚えのある名前が飛び込んできた
どれどれ…と、webサイトを開き、優越感に浸る。数字だけで実感はわかないが、1位は嬉しいものだ。
筆名で開設しているXにアクセス1位報告のスクショをするため、一旦ページを更新した。
すると、アクセス1位は変わらずとも、トピックス欄にサイトと提携している新聞社系のニュースサイトの記事が上がってきた。
『小説よだか新人賞 大賞は臥上玖美さん(34)に』
思わず目を留める。自分と同い年の、その名前には見覚えがあった。
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