ヒロインがすでに亡くなっている…! “地獄の道”を歩んだ佐田寅子は特別な女性だったのか?

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2024-09-28 06:00
投稿日:2024-09-28 06:00

最終週「虎に翼」#130

 さまざまな仕事をかけ持ちし、多忙な毎日を送る優未(川床明日香)。花江(森田望智)もひ孫に囲まれ平穏に暮らす。航一(岡田将生)のことは、のどか(尾碕真花)、朋一(井上祐貴)、優未が3人で気にかけていた。

 寅子(伊藤沙莉)は皆の暮らしぶりを見守りながら、桂場(松山ケンイチ)と「法律とは何か」について語り合ってきたことを振り返り――。


【こちらもどうぞ】『虎に翼』脚本家、アニメ界でなぜ高評価?朝ドラ人気の要因は公平な目線

【本日のツボ】



優未のセーターが法衣っぽい

 ※※以下、ネタバレあります※※

 星家のリビングで、「イチ、ニ、サン、シ…」元気いっぱい笑顔で体操する寅子。上下する頭の動きに合わせ、「連続テレビ小説」のテロップがポヨンポヨンとなるユニークなシーンから始まりました。

 2階から降りてきた優未に、「優未おはよう。きょうはとってもいいお天気よ」と明るく話しかける寅子。優未はといえば、そんな寅子のほうを見もせず、サイドボードに並べられた家族写真に「おはようございます」と話しかけます。そこには寅子の写真も。

 まさか!? ここで視聴者は気づかされるのです。寅子がすでにあちら側の人になっていたということを…。ひとり、朝食を食べる優未の様子を隣に座りニコニコと見ている寅子。テレビが伝えているのは「男女共同参画社会基本法」が施行されるというニュースです。「平成11年。寅子が亡くなり15年が経ちました」とナレーションが伝えます。

 ヒロインがすでに亡くなっている!! そんな最終回がかつてあったでしょうか。ほんとうにこの「虎に翼」は奇想天外。最後の最後まで私たちを驚かせてくれます。

「女性は社会の不平等に苦しむ」の答え合わせ

 元気がない娘を心配し、優未のそばにいて見守る寅子。橋の上で、会社を急にクビになった女性が、困っていると電話で会話しているのを耳にし、助け船を出します。その女性は美雪(片岡凛)によく似た人でした。

 ヒロイン亡きあとの優未を中心としたまわりの人たちの暮らしぶりを描きながら、後半は、昨日のラスト、「私は今でも、ご婦人が法律を学ぶことも、職にすることも反対だ」と桂場(松山ケンイチ)が口にしたシーンに戻ります。

「法を知れば知るほど、ご婦人たちはこの社会の不平等で、いびつでおかしいことに傷つき苦しむ。そんな社会に異を唱えて何か動いたとしても、社会は動かないし、変わらん」とその真意を語る桂場に、寅子は「でも今、変わらなくても、その声がいつか何かを変えるかもしれない」と反論します。

「君はあれだけ、石を穿つことのできない雨垂れは嫌だと腹を立ててきただろう」と桂場。「未来の人たちのために、自ら雨垂れを選ぶことは苦ではありません。むしろ至極光栄です」と再び反論する寅子に、「それは君が佐田寅子だからだ。君のように血は流れていようとも、その地獄に喜ぶもの好きは、ほんのわずかだ」と桂場。

 すると今度はよね(土居志央梨)が、「いや、ほんのわずかだろうが確かにここにいる」と割って入ります。

 居合わせた女子部の同期+轟(戸塚純貴)たちも同じ気持ちだと言わんばかり、睨むように桂場を見つめます。その強い絆を感じた桂場は「ふふっ、失敬」と一瞬、笑顔を見せ、またいつもの無表情に戻り、「撤回する。君のようなご婦人が特別だった時代は、もう終わったんだな」と団子を食べようとします。

 しかし、すかさず寅子が「はて? いつだって私のような女はごまんといますよ。ただ時代がそれを許さず、特別にしただけです」と桂場をやり込めました。

いつも心に寅子を!

 母・はる(石田ゆり子)が登場し、「寅子、どう? 地獄の道は?」と話しかけ、「最高です!」と手で頭の上に大きな〇を作って、泣き笑いの寅子。

 そしてエンディング。米津玄師の主題歌とともにこれまでの登場人物や名場面が流れ、最後は法衣を着た寅子が歌詞に合わせて「さよーならまたいつか」と視聴者へ口パクメッセージを伝えました。

 大団円。ほんとうにこの半年間、楽しい朝をありがとうございました。これからは「はて?」と声を上げていき、「なるほど」と人の意見に耳を貸そうと思いました。いつも心に寅子を!

桧山珠美
記事一覧
TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。読売新聞「アンテナ」、放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


母ツヤ(水川あさみ)笑顔の最期、「ナレ死」に救われた
 大阪に戻ってきたスズ子(趣里)は病床のツヤ(水川あさみ)と再会する。ツヤの病状のことを受け止めきれないスズ子は、梅吉(...
桧山珠美 2023-11-23 16:05 エンタメ
六郎役・黒崎煌代の将来性、母ツヤとやり取りに泣けて泣けて笑える
 六郎(黒崎煌代)の出征の日がせまり、六郎は頭を丸め恥ずかしそうにしている。相変わらず体調が悪いツヤ(水川あさみ)は専門...
桧山珠美 2023-11-21 17:30 エンタメ
「下剋上球児」で“令和のキムタク”になりそうなイケメン俳優は?
 2019年のドラマ、「3年A組-今から皆さんは、人質です」(日本テレビ系)を覚えていますか?  菅田将暉が教師役...
「らんまん」のデジャヴ? ヤバ藤化するダンサーの中山、秋山逃げて~
 内緒の話があると松永(新納慎也)から呼び出されたスズ子(趣里)は、梅丸のライバルである日宝に一緒に移籍しないかと誘われ...
桧山珠美 2023-11-14 16:15 エンタメ
木下優樹菜から迸るガチヤンキー魂!前言撤回、TV再登場するタチの悪さ
木下優樹菜様(元タレント・35歳)  やっぱりユッキーナ(木下優樹菜)様のヤンキー魂には惚れ惚れしてしまいます。 ...
堺屋大地 2023-11-14 06:00 エンタメ
市川染五郎は眉毛、堅あげポテト、ラ・マンチャの男なくしては語れない
 先日、歌舞伎で「ルパン三世」をやることが報じられました。題して、新作歌舞伎「流白浪燦星(ルパン三世)」。  ルパ...
上原多香子は不倫を繰り返す“恋愛単発ドラマ”の女王!続編不要体質の業
上原多香子様(女優、美容家・40歳)  元SPEEDの上原多香子様は、あまり役者業のイメージはないと思いますが、す...
堺屋大地 2023-11-14 16:23 エンタメ
スズ子覚醒!茨田りつ子(菊地凛子)と渋谷のり子の表情がオーバラップ
 歌うコツを掴んだスズ子(趣里)は、羽鳥善一(草彅剛)とのレッスンを続け、その歌声はぐんと熱を帯びてきていた。  ...
桧山珠美 2023-11-10 14:30 エンタメ
“おぼこ娘2人”の初々しい恋バナ! つよぽん演じる羽鳥は「まさに笑う鬼」
 スズ子(趣里)と羽鳥善一(草彅剛)の厳しいレッスンは相変わらず続いている。しかし、羽鳥はスズ子の歌に相変わらず満足しな...
桧山珠美 2023-11-09 15:46 エンタメ
BLACKPINKの再契約なるか?「7年目のジンクス」結末に4つのシナリオ
 世界的なK‐POPブームの昨今。「コクハク」読者の中にも、K-POPにハマっている方も多いのではないでしょうか? ...
2023-11-09 06:00 エンタメ
「マイホームヒーロー」を嗜む!なにわ男子高橋“俳優武者修業”に高好感度
 すっかり忘れていました。佐々木蔵之介(55)の存在を。最後の独身大物俳優などと言われ、過去には、小野真弓や丸山桂里奈な...
大和玲子(蒼井優)の戒名に「礼」と「優」、位牌の細部にまで抜かりなし
 スズ子(趣里)たちは、大和礼子(蒼井優)が出産後に病院で亡くなったと知らされる。スズ子はお別れの会で、大和が梅丸少女歌...
桧山珠美 2023-11-03 14:30 エンタメ
スズ子のナレ出世、股野のナレ求婚…感動のシーンを描いて欲しかった!
 昭和12年、スズ子(趣里)が香川から戻ってきて3年。梅丸少女歌劇団は、秋山(伊原六花)のタップダンスとスズ子の歌を二本...
桧山珠美 2023-11-01 15:37 エンタメ
SMILE-UP.(旧ジャニ)俳優部の演技&将来性、飛躍の片鱗見せたの誰?
 嵐の二宮和也(40)がSMILE-UP.(旧ジャニーズ)からの独立を発表しました。  中丸雄一、山田涼介、菊池風...
スズ子出生の秘密に迫る香川編、ナニワの至宝&大地真央のヅカ同期が登場
 スズ子(趣里)と六郎(黒崎煌代)のふたりは、梅吉(柳葉敏郎)とツヤ(水川あさみ)の故郷である香川を訪れる。スズ子が小学...
桧山珠美 2023-10-28 06:00 エンタメ
平手友梨奈に平野紫耀ら事務所移籍組が躍動!俳優と歌手の二刀流はあるか
 平手友梨奈(22)が出演するドラマ「うちの弁護士は手がかかる」(フジテレビ系)が好評を博している。  平均世帯視...
こじらぶ 2023-10-28 06:00 エンタメ