【2024年人気記事】千代田区民は“勝ち”だよね。通勤ラッシュを知らない自分は上流階級層の女

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-01-04 06:00
投稿日:2025-01-04 06:00

都会に暮らす自分に酔いしれる綾乃の居場所

――私って、社会のヒエラルキーの中ではどのくらいの位置にいるんだろう…。

 散歩がてら、現在の職場である大学病院へ向かう中で綾乃はぼんやり考える。自身に問いかけながらも、答えの予想はついているのだが。

 綾乃の世帯は、一般的にパワーカップルと呼ばれている。都会暮らし、持ち家持ち、夫婦ともに正社員で、世帯年収は1500万を余裕で越えている。

 そもそも、肌感覚で世間の勝ち組グループにいることは自覚している。

 この物価の高い時代の中でも、好きなものを買い、食べ、余暇には出費を気にせず旅行にも行けるのだから。

「鈴木さーん、ごきげんよう」

 本郷通りの坂を下っていると、子供が同じ知育教室に通う藤堂さんに車の中から声をかけられた。

「おはようございます、藤堂さん」

 彼女が運転するランボルギーニの助手席には、制服を着た息子の賢至くん。きっと幼稚園への送りの最中だろう。

 着飾っているわけではないが清楚で上品な身なり。彼女は綾乃を見つけるといつもわざわざ停車して、挨拶をしてくれる。

 一点の曇りもない穏やかな笑顔は、心の余裕に溢れていた。自分も同様の笑顔で彼女に頭を下げた。

住民に共通しているのは“余裕”

 この辺りの住民は、ベイエリアや武蔵小杉などのタワーマンション住民とは違う、独特の空気感があると綾乃は感じている。

 洗練されている、地に足がついている、とでもいうのだろうか。

 港区や渋谷区などの浮ついた雰囲気もない。だからといって成城や田園調布のようなお高くとまった雰囲気もない。地価が高いにもかかわらず、見栄で暮らす地域でもないので、地に足着いた富裕層が多い印象だ。

 同じマンションのご近所さんは、会社経営者、政治家のご家族、高齢の資産家のご隠居、芸能関係の人もいれば、孝憲のような大手企業勤務の会社員もいる。

 様々な種類の人が混在しているからなのか。似たような家族構成と所得者層がどんぐりの背比べでマウント合戦するような、下品な階級闘争とは無縁だ。

 共通しているのは、多くの意味での、余裕である。

 オフィスビルや学術機関などが立ち並ぶ無機質な街並みには見えるが、それぞれの空気感を漂わせた穏やかな時間が、暮らす住民の間には流れている。

親子レッスンの後は、恒例のランチ会へ

 毎週土曜日の午前中は4歳の娘、香那の知育教室がある。

「鈴木さん、もしよければ今日も私の家でランチでもいかがですか?」

「はい、ぜひ。お誘いありがとうございます」

 親子レッスンの後は、同じ教室に通うママ友とのランチ会が恒例だ。旦那さんが外資系コンサルティングファームに勤務する森さんと、実家で赤坂の料亭を営む佐橋さん、大学病院医師の妻である高柳さんが主なメンバー。

 先日の出勤の際にすれ違った藤堂さんは、彼女自身が多忙のことが多く、参加頻度は低い。だが、付き合いが悪いなどという陰口もない。余裕あるママ同士、お互いを尊重しあっているのだ。

確かめるまでもないハウスキーパーの存在

 森さんの家は、オフィス街の中心にある高層タワーレジデンスの28階にある。綾乃の家と同じ程度の広さの似たような3LDKの間取りだが、きちんと掃除や整理整頓がされた空間は、その裏にハウスキーパーの存在を感じさせる自宅だ。

「みなさん、お年賀にロウリーズのクラシックセットもらっちゃったから、そちらでもいいかしら?」

「あら、ローストビーフを頂けるんですか?」

「もちろん!」

「良かった。私もお義母様から頂いたテーベッカライを持ってきたので、食後にどうぞ」

「嬉しい。私、大好きなんです~」

 同じ価値観を持つ者同士で繰り広げる、等身大の会話に酔いしれる。

 綾乃の居場所は、確実にそこにあった。

#2へつづく:自身が勝ち組だと信じる綾乃が起こす、界隈間の歪み】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


い、いらん…! 女友達からの“即メルカリ行き”プレゼント5選。じゃあ40女が欲しいテッパンは?
「誕生日プレゼントはもらえるだけで、なんでも嬉しい♡」そんな時代は、遥か昔。アラサー・アラフォーになると、「これ、いらな...
ニュース見てないんか? ママ友の“規格外行動”にドン引き! ガソリン代500円のみ、誰にでもタメ口にモヤッ
 ママ友は普通の友達とは違って年齢も育ちも異なるケースが多いため、相手のふとした言動に驚愕する場面もあるでしょう。  ...
女優は釈放時のメークも話題になる。【プロ解説】のりピーはバッチリ系だったが、広末涼子は泣き腫らし風?
 16日早朝6時台、女優の広末涼子(44)が浜松西警察署から釈放された。7日に新東名高速道路で追突事故を起こし、搬送先の...
美女に「あんたはハエよ」! ベテランママが放った“超ひどいけどギリ笑える”言動3選
 みなさんのイメージでは、スナックのママたちってどんな感じでしょう? 人生の先輩で、何か気の利いたことを言ってくれる優し...
「高収入女子だからモテない」は言い訳です。あなたが敬遠される本当の理由に気付いて!
 令和の現在は、男性だけなどと性別を問わず、女性も働く時代。昔より大金を稼ぐ女性も増えていますが、高収入なのに全然男性が...
【宿泊レポ】正直、ビジホをあなどってた。エルメスブルーの部屋が超おしゃれで大正解でした♡
 最近の物価上昇に、もう旅行も行けないんじゃないかと思っています。が、やっぱりたまには旅行したい。それをモチベーションに...
最強の猫ファイターを目指せ! “たまたま”の白熱トレーニングを激写
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
 片付けられない人の「あとで使う」を信じるな! 笑っちゃうトンデモ言い分6連発
 あなたは部屋を片づけるのが得意ですか? それとも「片づけて!」と怒られてから渋々片付けようとするものの、なかなか片づけ...
小さいけれどめっちゃタフ! ヒマワリ界の超新星「サンフィニティ」ほっぽらかしでも100輪咲くよ
 猫店長「さぶ」率いる我がお花屋の仕事には、歩道や公園の脇に造成された花壇への草花納入もあります。その中には近隣も含まれ...
組織には必要不可欠?「デキおじ」に「女々しい高倉健」などクセありおじさんが大活躍!
 本コラムは、地元の“幽霊商店会”から「相談がある」と言われ、再始動の先導役を担う会長職を拝命することになったバツイチ女...
老眼は関係ないよ? アイドルグループが皆同じ顔に見える現象で決意したこと
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
「愛想笑い、やめたい」気づいたらヘラヘラ…いつもニコニコ女子も人知れず悩んでいます
「無意識に愛想笑いをしてしまう…」「1日中愛想笑いをして疲れた…」このように、愛想笑いがやめられずに悩んでいる女性は多い...
アラフィフ独女が見たフジテレビ問題。氷河期世代の私が感じた世代間の「当たり前」のズレ
 アラフィフ独女ライターのmirae.(みれ)です。昭和48年生まれの私は、氷河期世代として社会に出たときからセクハラや...
仕事でも損してない? 自己肯定力が低い人の特徴&高める方法4つ。まずはネガティブな口癖から卒業しよう
 自分をいつも卑下し、好きになれない人は「自己肯定力」が低い傾向があります。そこで今回は、自己肯定力が低い人に見られる特...
常に後方待機! 完璧フォルムの“たまたま”を愛でるマニアの悲しき運命
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
大都会のミスマッチ
 まだまだ続く、花冷え。  下を向き、背中が縮こまりかけたその時、ああ、いかんいかん。  気を取り直し、上を...