インスタでは好評なのになぜ? 「丁寧な暮らし」をする35歳女のホームパーティーに誰も来ないワケ

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-01-11 06:00
投稿日:2025-01-11 06:00

「丁寧な暮らし」を望んでいたんだろうか

「今日は来てくれてありがとうね」

「うん。みんなに会えなくて残念だったけど」

 もし、もっと賑やかであったら、彼女はお酒を飲んで代行で帰ったかもしれないし、心からの笑顔があったかもしれない。申し訳なさで、沙耶はコインパーキングまで彼女を送ることにする。

 時間は夜の8時過ぎ。車通りは多いが、人は1人も歩いていなかった。

「本当に素敵な場所ね。波の音が聞こえてきそう」

「海は少し遠いから、気のせいだよ」

「そうなんだ。でも、Instagramにはよく海辺の楽しそうな家族写真を載せているから、てっきり海に近い場所なのかと思っていた」

 暗闇の中で途切れ途切れに話題を探る。友人であれど、環境や生活リズムの違う彼女とは、SNS内の情報しか頼りはない。都内に住んでいる時は、しばらく会っていなくても話題に事欠かなかったはずなのに。

 車に乗り込む彼女に、沙耶は無印良品の紙袋を押し付けるように手渡した。

「これお土産。うちで作ったぬかづけとパン」

「ありがとう。漬物は実は苦手なんだけど、チャレンジしてみるね」

 針で刺されたような痛みがあったが、こんな場所まで来てくれる大事な友達だ。その言葉を亜紀なりの素直さと捉えることにする。

幸せなはずが…何かが失われている気がした

 彼女のポルシェを見送りながらふと気づく。

 実は、自分も漬物がさほど好きではないことを。

 家族もぬかづけを喜んで食べているわけではない。しかし、義務的に漬けているのはなぜだろう…。パン作りもそう。近所には、おいしいパン屋さんがいくつもある。自分が作るものよりはるかにおいしいそれが。

 ヨガ、ホームパーティー、Instagram、手作り。丁寧でのんびりした暮らしは、本当に心からしたいことなのだろうかと、自分に問う。

 ライフステージのチェックボックスがすべて埋まり、充実しているはずの今の生活。だけどどこか、自分の中の大切な何かが失われているような気がしてならなかった。


#2へつづく:夢の湘南「一軒家暮らし」で私が失ったのは何? 不便さの忠告に聞く耳持たず…腐っていく自分にゾッとする】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


夏バテを吹き飛ばせ! キュートな「たまたま9連発」で癒されよう
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 7月にご紹介したもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまた...
部下に嫌がられる社内チャット4選。LINEとは“地雷”が違う?
 コロナの影響でリモートワークが定着し、TeamsやSlackなどの社内チャットを利用する企業が増えました。「LINE感...
もしや天界と交信中? 神秘的な“たまたま”奇跡の1枚の種明かし
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
鞄も洋服もおソロ…真似してくるママ友って何考えてるの? 波風立てない4つの対処法
 アクセサリーから始まり、鞄や洋服、靴まで気づいたらおそろいに…。何でもかんでも真似してくるママ友に悩まされている女性は...
川面に映るほどの星空で…川に落ちた星のかけらを拾う夜
 空も水も澄んでいて、どっちが上だか下だかもわからなくなる。  空の星に手は届かないけれど、川に落ちた星のかけらな...
ほっこり癒し漫画/第78回「グリーングリーン」
【連載第78回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
深夜1時過ぎにかまちょ女子が「話聞いてぇぇぇ」と絶叫。グループLINEの“ウザい人”いるよねえ
 グループLINEは複数の人が参加するもの。そのため、空気を読んだり協調性を大事にしたりと、1対1のLINEとは少し違っ...
もう「ディズニーシーに行きたいブーム」に惑わされるな
「ディズニーシーに行ったことはある?」  ここ最近、またシーへの気持ちが盛り上がり、口癖のように質問しまくって...
「ごPDF化で幸いに存じます」馬鹿丁寧なLINEで“おバカバレ”した赤っ恥間違い敬語集3選
 日本語は、本当に難しい言語ですよね。ひらがなやカタカナ、漢字が混ざっているだけでなく、丁寧語、謙譲語、尊敬語など状況に...
小雪の姉・モデルの弥生は圧巻のシルバーヘア! 染める派と自然派、結局似合うタイプは?
 女優・小雪(47)の姉でモデルの弥生(49)が今月13日、自身のインスタグラムで「先日、京都で行われたBVLGARI ...
靴下勝負!「ローソン×無印良品」vs「ファミマの定番」vs「渡辺直美のプニュズ」履きやすいのどれ?
 この夏は特に暑い…。少し歩くと靴の中が蒸れちゃいそう。そこで今回は気軽に買って履き替えられる(けれど、妥協しない!)か...
モテモテ“たまたま”に熱愛発覚! ロマンチックな鼻チューにドキッ♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
シゴデキだけどなかなか厄介!? 高学歴部下を持つメリットとデメリット
 自分の部下を好きに選べるなら、どんな人がいいですか? 「ポンコツはイヤ! 高学歴で聡明な、シゴデキの部下が欲しい!」と...
酷暑で園芸瀕死でも夏のお助け花「ペンタス」、どんだけ咲いてくれるのw
 暑いです。ただでさえ更年期のお年頃のワタクシ、この厳しい暑さは格別でございます。  猫店長「さぶ」率いる...
あの上司が“うさぎスタンプ”で甘えてるっ!職場への誤爆&赤面LINE10選
 職場のグループLINEは、仕事を円滑に進めるために、今や欠かせないものでしょう。でも、あろうことかそんな職場LINEに...
予約必須店で失態!食い意地が勝り、朝10時からフルコースの“敗者復活”
 汗ばむ気温のとある週末、筆者は湖畔の景色を見ながら、優雅にフルコースをいただいておりました。時計の針はまだ午前10時を...