信念すら感じる、「袴田事件」をメイン据えた胆力
シリアスなテーマに据えてしまうと、当然笑いを起こすのが難しい。僕も若手の時に「殺人事件」をテーマにしたネタをやったが、「犯罪が絡むと笑いにくいから止めた方がいい」と作家からアドバイスされたことがある。
それくらい芸人はシリアスな話題や犯罪が絡む話題を避けがちなのだが、ライブの中心として「袴田事件」を据えた胆力が立派だ。信念すら感じる。
警察が捏造した実際の証拠を示しながら、いかに「ありえない証拠だったのか」を説明していくのだが、確かにありえなさすぎて笑ってしまった。
真面目に説明するところと、ボケの口調で話すところのバランス感覚が見事で、「このパートはちゃんと聞こう」「このパートは思い切り笑っていい」と分かるので、安心して見られた。それに本人がその事件に関与していることで、お笑いライブで取り上げても軽薄に見えないのも大きかった。
伏線が張り巡らされたライブの構成にも着目してほしい。これは実際に見てほしいので細かく説明はしないが、ライブの途中に散りばめられたボケやワード、舞台の演出が、ライブの終盤にかけて次々と回収されていく。
特に袴田事件を踏まえたうえで、人の記憶力のあやふやさや証言の不確かさを指摘するような仕掛けもあり、笑いつつもゾッとしてしまうような尖った構成になっていた。裁判ドラマに飛び込んだような高揚感すらあり、エンタメとして最高だった。
「法律あるある」にも見える技術の高さ
他にも感嘆する点は多々あった。「法律家あるある」が散りばめられ、こたけ正義感が被告人に「罰金または懲役○年になる可能性がある」と説明しているときに、「じゃあ罰金にします」と言われた話など、法律家ならではのあるあるが新鮮で面白い。
我々は法律の専門家じゃないのでよくあるシチュエーションかどうかは知らないけれども、その様子を想像するだけで面白い。こたけ正義感のツッコミワード「選べるわけないです! サブウェイじゃないんだから」も面白くて、芸人としての技術も高いなと感心してしまった。
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「弁論」はfunnyとinterestingの割合が黄金比率で、ただ面白いだけでなく、皮肉や社会批判も織り込んで深みを与えた、凄まじいライブだった。
弁護士芸人はおそらくこたけ正義感しかいないので、このライブをできるのはこたけ正義感しかいない。また次回の開催が楽しみだ。
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