3度目のデートで関係を
春香さんからお礼を口実に食事に誘い、初デートは夜景が美しいイタリアン。お互いが大のミステリー小説好きとわかり、話題は尽きなかった。
しかし、彼の左手薬指には結婚指輪が光っている。
「複雑でした。それでも、帰り際に『また一緒に食事ができるかな?』って聞かれて…もう舞いあがりましたね。3度目のデートで関係を持ってしまいました」
25歳という年齢は、女にとって将来を考える節目ともいえる。少なくとも春香さんはそうだった。不倫の恋に悩んだ夜は数えきれなかったという。
「彼は『春香と一緒にいると心が安らぐ』って言ってくれるんです。でも、将来の話は一切なくて…このままじゃ都合のいい女で終わるかもって思ったら怖くなって。『北陸の両親が結婚を急かしてきて、お見合いを勧められた』と嘘をついて、本音をぶつけました」
悦也先生の答えは、以下のようなものだった。
「4歳の娘さんが再来年に小学校受験で、今は離婚を切りだせない。でも合格したら必ず妻に話すって…。奥様は歯科医をしているから、離婚しても経済的には問題ないそうです。狙っているのは白金にあるお嬢様学校らしくて、親子面接もあるし、もう少しだけ待ってほしいと言われました」
縁切り榎に並ぶ数々の絵馬
一度だけ、彼の妻と顔を合わせたこともある。
「病院に着替えを届けにきた奥様に、受付で声をかけられました。派手ではないけれど、整った顔立ちで綺麗な人でしたね。私が奪おうとしている人の奥様って、こんな人なんだ…と思ったら、逆に絶対に負けたくないって気持ちが強くなったんです」
春香さんの執念は、縁切り榎へと向かった。
恋バナをしていた友人が、「DV彼と別れたくて縁切り榎に行ったら、すぐに別れられた」という話をしてくれたのがきっかけだった。
板橋本町駅から歩いて5分ほどの場所にある縁切り榎は、住宅街と商店街に溶けこむように立っている。噂を聞きつけた人々が行列を作り、皆どこか神妙な顔をしていた。
「初めて行った時、もっとおどろおどろしい場所かと思ったけれど、意外とこじんまりしていて…千円で絵馬を買って、奥様との縁切りをお願いしました。『E先生が奥さんと離婚し、私と結婚しますように』って」
絵馬掛けには、似たような切実な絵馬がびっしりとかかっていた。
「『口うるさい姑と縁が切れますように』『モラハラ上司が退職しました。ありがとうございます』から、『A子、流産して』なんていう恐ろしいものまで…。皆、追いつめられてるんだなって思いました」
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