「時代に挑んだ男」加納典明(47)「笠井紀美子は過去1、2」 個性的で雰囲気があって頭も歌も良かったジャズシンガー

更新日:2025-10-07 11:03
投稿日:2025-10-07 11:00

【増田俊也 口述クロニクル】

 作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。第1弾は写真家の加納典明氏です。

  ◇  ◇  ◇ 

増田「笠井紀美子さんとどこで交遊があったんですか」

加納「昔、六本木に『マックス・ホール』っていうジャズクラブがあってね。オーナーは、もう亡くなったけどマキノ正幸といって、後に沖縄に移住してアクターズスクールを開校したんだけど、俺はマックス・ホールをやってた頃に知り合ったんだ。そこのピアニストが世良譲 トラでたまに大野雄二も来ていて、シンガーが笠井紀美子だったんだよ。俺は3年だか4年、いや、5年くらい知り合いだったけど、俺の歴史の中では、すごく印象に残る女だった」

増田「雰囲気がある人ですよね」

加納「あったね。当時の日本のジャズの最先端をいってた。カネがうんぬんではなくて芸術的に最先端。ただ、あまりポピュラーなレコードは出さなかったし、そういう活動をしなかったというか、周りにそういう環境がなかったというか」

増田「一時期は結構トップでしたよね?」

加納「そうそう、何と言っても雰囲気があってかなりのレベルで魅力に富んでいた」

増田「彼女が加納さんのお付き合いされた中でも、特に強く印象に残っている方なんですね」

加納「そうだね。知り合った女性では過去1、2だね」

増田「理想の女性像に近いということですか」

加納「うん。だけど、女性の“理想系”なんてないじゃない? 結局、自分がイメージするものは、出会い頭の誰かだったりする。その関係の中で作られていくもので、そこに感じるものの質や量が大事なんだよね」

増田「笠井さんは、単にビジュアルがいいというだけじゃなくて、全体の雰囲気も含めて“理想に近い”ということなんですか?」

〝国籍不明〟の魅力

加納「歌も良かったしね。それに頭がいい。もちろん馬鹿ではなかったんだけど、うん、そういうことじゃない。そんな単純な話じゃないんだよ」

増田「個性的な女性ですよね」

加納「そうですね。非常に個性的」

増田「ちょっと検索してみましょうか」

加納「うん。どんなのがある? 見せて」

増田「例えばこういうの、これはアルバムの」

加納「うんうん、そうそう、これもよかったね」

増田「当時の彼女の写真を見ると国籍不明というか、そういう雰囲気ですね」

加納「そうだね。伊豆に連れて行って1日か2日ロケして写真を撮ったことがあるよ。彼女と写真集を作ろうかという話も出たけど、結局作らなかったんだ。でも、そういう写真は残ってるよ。彼女に関してはヌードは撮ってないけどな。超一流と呼ばれるジャズシンガーというよりは、前面に出るようなタイプじゃなかったんだよね。そこがよかった」

増田「阿川泰子さんとか美人ジャズシンガーが注目されるちょっと前に活躍されたんですよね」

加納「阿川泰子は俺は、正直、女性としての魅力はなかなかだけど、笠井とは違っていた。まあ、彼女を全部知ってるわけじゃないけど、そういう形でしか残ってないな」

増田「笠井さんは、カメラマンと被写体という関係から恋人関係に発展したというよりは、マックス・ホールで遊びに行く仲だったんですか?」

加納「まあ、そうだね。毎日飲みに行ってたからね。そこで、彼女が歌うのを聴いてたんだよ。悪くなかったよ、店の空気も。そこで『FUCK』の展覧会みたいなものもやったんです。ニューヨークから帰ってきて、35ミリのスライドを2台のプロジェクターでパパッと照らしてね。その時、いろんな文化人が来てたんだ。もう大物ばかりだったけど」

(第48回につづく=火・木曜掲載)

▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。

▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。
(増田俊也/小説家)

エンタメ 新着一覧


“北川景子効果”で腕時計が高見え…腕時計CM14年目突入の背景にNO炎上と庶民感覚
 俳優の北川景子(39)が2日、都内で行われた「シチズン・クロスシー・KEIKO KITAGAWA Limited Mo...
2025-10-03 17:03 エンタメ
30キロ減の華原朋美に“マンジャロ疑惑”の災難…30周年ライブの神対応&美声に称賛の声続々も思わぬ波紋
 歌手の華原朋美(51=写真)が発信した1本の動画が、いい意味でも悪い意味でもネット上で話題になっている。華原は9月9日...
2025-10-02 17:03 エンタメ
SMAPファンも“中居ヅラ”の粘りに困惑…“報道被害”を問う署名数4500の威力はいかほどか?
 ファン心理はわからなくもないが、過剰な擁護は社会から理解を得られないのではないか。今年1月、元フジテレビ社員の女性との...
2025-10-02 17:03 エンタメ
NHK「ばけばけ」ヒロインの母・池脇千鶴“40代の飾らない姿”に共感続々…かつては体当たり役も
 9月29日から放送中のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)『ばけばけ』で主人公・松野トキ(高石あかり)の母であるフミを演じる...
2025-10-02 17:03 エンタメ
「ばけばけ」しめこ汁に“朝から残酷”の声もあるけど…ピーターラビットの話を思い出す
 突如、トキ(福地美晴)やフミ(池脇千鶴)、勘右衛門(小日向文世)の前から姿を消した司之介(岡部たかし)。何日経っても家...
桧山珠美 2025-10-02 15:48 エンタメ
旧ジャニ圧力をSTOPさせた公取委が「新指針」でも業界で楽観視されないワケ…ピンハネが今も横行する芸能界の暗部
 公正取引委員会と内閣官房による、芸能人の移籍や独立を妨害する行為を防ぐための指針が発表され、業界の注目を集めている。公...
2025-10-01 17:03 エンタメ
横浜流星「べらぼう」が大河史上ワースト視野もCMでは"最強"のワケ…「国宝」二枚看板・吉沢亮と明暗
 横浜流星(29)が、「スーパードライ ドライクリスタル」の新キャラクターに就任したことがアサヒビールから正式発表され、...
2025-10-01 17:03 エンタメ
小泉孝太郎は総裁選で進次郎が勝てば“総理大臣の兄”となるが…そこに潜む意外なリスク
 10月4日に行われる自民党総裁選で、「戦後史上最年少の総理大臣誕生」となる可能性が囁かれている小泉進次郎衆院議員(44...
2025-10-01 17:03 エンタメ
「激レアさんを連れてきた。」は“他人と違ってたっていいじゃん”というメッセージを笑いと共に発信し続けた
【碓井広義 テレビ 見るべきものは!!】  9月29日に最終回を迎えた「激レアさんを連れてきた。」(テレビ朝日系)。と...
2025-10-01 15:08 エンタメ
小泉進次郎氏はステマ発覚もおとがめなし…“やらかし芸能人”から大ブーイングも納得の「業界格差」
 フジテレビの佐々木恭子アナ(52)は9月29日、朝の情報番組「サン!シャイン」の新レギュラーキャスターとして出演した生...
2025-09-30 17:03 エンタメ
朝ドラ「ばけばけ」開幕! ヒロイン高石あかりの幼少期演じる子役・福地美晴は“スピード出世”の逸材
 2025年度後期のNHK朝ドラ「ばけばけ」が29日にスタート。主演の高石あかり(22=写真)が演じるヒロインのトキは、...
2025-09-30 17:03 エンタメ
読売テレビ「ダウンタウンDX」不可解な番組終了の余波…松本人志が激怒していた「ミヤネ屋」報道
 11月1日にスタートする「ダウンタウンチャンネル(仮称)」で、日本テレビ系の「笑ってはいけない」を制作、配信すると「現...
2025-09-30 17:03 エンタメ
小泉進次郎氏がひろゆき氏とのYouTube討論会でも英語を断固拒否! 林芳正氏と茂木敏充氏は流暢に回答したのに…
 27日に自民党のYouTubeチャンネルで配信された動画「ひろゆきと語る夜 #変われ自民党 日本の未来を語れ!」に総裁...
2025-09-30 17:03 エンタメ
「ばけばけ」は往年の名作を越えられるか? 「虎に翼」から続く岡部たかしの“父親”像が楽しみだ
 この世はうらめしい。けど、すばらしい。没落士族の娘・松野トキ(髙石あかり)と外国人の夫・ヘブン(トミー・バストウ)。怪...
桧山珠美 2025-09-29 17:50 エンタメ
Perfumeのっち、大学中退話が地上波TV解禁でファン安堵…「ネタに昇華できてうれしかった」の反応も
「Perfume」といえば、あ~ちゃん(36)、かしゆか(36)、のっち(37)の3人によるテクノポップユニット。年内で...
2025-09-29 17:03 エンタメ
“茶番”自民党総裁選の広報係? TBS系「ひるおび」が連日の大ハシャギ…ふかわりょうは痛烈批判
 テレビの報道番組・情報ワイドはもう自民党総裁選一色で、その茶番を批判するでもなく、お祭り騒ぎと出馬した連中の宣伝ばかり...
2025-09-28 17:03 エンタメ