NHK朝ドラ「ばけばけ」は予想を覆して大ばけする可能性
【芸能界クロスロード】
秋ドラマが本格的に始まった。まずは朝ドラ「ばけばけ」。明治維新後の時代を舞台に怪談好きの主人公と夫を中心に日常を描くドラマ。歴史上の人物とはいえ、馴染みは薄い。スタート時から画面が「暗い」「朝らしくないテーマ」など批判的な声が続出していた。それでも見る習慣がついている朝ドラ。回を増すごとにじわじわと面白さが見えてきた。「今までにない朝ドラ」と期待に変わってきている。制作はNHK大阪。朝ドラの黒歴史となった「おむすび」の汚名返上に懸けているかのように見える。物語も随所に笑いがちりばめられている朝ドラらしくない演出が秀逸だ。
主人公・トキを中心にした家族と取り巻く人たちは、「男はつらいよ」の寅さん一家と似たような温かさと、日常の生活から生まれるクスッとした笑いは寅さんで見た一シーンを彷彿させる。特に父親役の岡部たかしは渥美清の寅さんのような立ち位置で存在感を放っている。
ヒロインは髙石あかり(写真)。橋本環奈や今田美桜と比べるとまだまだ実績や人気は見劣りするが、初めてドラマに取り上げる人物だけに、過去の役のイメージを持たない髙石を起用したのも納得できる。
ヒロインと共に先の楽しみが持てる今回の朝ドラ。大方の予想を覆し、大ばけの可能性もある。
民放の秋ドラもスタート。最大の注目はフジテレビ。一本でも視聴率でベストテン入りする番組を作ることが信用回復の第一歩とドラマに力を入れてきた。
テレビ朝日の「科捜研の女」から鞍替え。“月9”の枠で沢口靖子をお迎えして用意されたドラマが「絶対零度」。「科捜研--」と似たような刑事ドラマだが、大きく違うのは初回から走る沢口が全開。おまけにアクションまで披露した。
沢口は静のイメージの強い女優。新境地開拓となるか、途中で息切れするか。
フジの最大の目玉は三谷幸喜が25年ぶりに脚本を手掛けるドラマ「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」だ。
話題性は一番だが、初回視聴率は5.4%。2話は1ポイントダウンした。
「見逃し配信で見る時代とはいえ、三谷ドラマなら8%ぐらいはいくと見込んでいたフジも想定外だった」(テレビ関係者)
三谷作品といえば演劇界のブランド。初回から昭和の渋谷を再現した圧巻のセット。「懐かしさを覚えた」と見入った中高年もいたが、肝心なのはドラマの中身。三谷らしさよりも、頭に浮かんだのは昨年、ドラマ界の話題を独占した宮藤官九郎の「不適切にもほどがある!」(TBS系)。
三谷らしい奇をてらった「もしも――」の長いタイトルも、まるで「不適切――」のよう。舞台もクドカンと同じ昭和。必然的にストリップ劇場や喫茶店が出てくる。安アパートにカセットテープなどの小道具も、昭和の「あるある」を随所に見せている。
誰も真似できない演劇の世界をつくってきた三谷が、クドカンを意識したドラマ作り? 三谷らしさは主演クラスが揃う豪華過ぎる出演者たち。三谷ファミリー大集合だが、あまりに多すぎて「もったいない」、との声も聞かれる。
最近は三谷映画も興行的にも不発続き。フジと共に三谷自身の巻き返しも含んだようなドラマ。先行きも不安視されるが、「最後まで見て面白さを知るのが三谷作品」ともいわれる。主演の菅田将暉のセリフ「芝居はわからなくていいんです。感じてくれれば」が視聴者に向けた三谷のメッセージかもしれない。
(二田一比古/ジャーナリスト)
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