45歳、あと5年で50歳という現実
もう、45歳。
だけど、精神年齢はまだアラサー。32歳の部下を同世代扱いして、苦笑されたことがあるくらい、感覚はまだ若い。
結婚していないし、子どももいないということもあるだろう。類友なのか、今付き合っている友達も自分と同じような未婚キャリア女性がほとんど。だから、というのは言い訳なのか…。
立ち止まってあたりを見回せば、同年代の仲間はみな会社を去っていた。
独立して会社を立ち上げたり、フリーランスになった友達も多い。セカンドキャリアだと、介護の学校に通い始めた元同僚もいる。私はまだ、セカンドどころか、ファーストの道すがらの気分なのに。
――あと、5年で50歳なんだよな…。
具体的な数字を考えるとゾッとする。平均寿命であれば、すでに折り返し地点を超えている。知人の訃報を聞くことも増えてきた。
――いや、45歳なんじゃない。あたしはレベル45っ!
年齢は単なる数字であることを、心の中で念を押す。気休めだけど、前を向く。無理やりでも私には必要な作業だ。
これから、20年ぶりにある場所を訪れる。そこは、渋谷駅から徒歩5分、明治通り沿いの古びた雑居ビル。
再開発で来年には取り壊されるらしいその場所にあるのは、“Bar iris” バー アイリス。アイリスは、英語でアヤメの花をさす。5月生まれの私と同じ名前のバーである。
懐かしいメアドからの連絡
『年内閉店のお知らせ』が届いたのは昨日の夜だった。
懐かしいメールアドレスからの連絡に、私はその差出人を二度見した。
文面は、一斉送信のそれだったけど、リストの中に自分の宛先がいまだ含まれていた事実は、ショックに打ちひしがられていた私の心を優しく包んだ。
別に、何も期待していない。ただ、三軒茶屋の自宅までそのまま帰る気になれず、久々に途中下車した。
“彼”に、忘れられていないだろうかという不安は一抹ある。動悸を抑えながら、朽ちたビルの階段を上った。
フライヤーやステッカーが隙間なく貼られた扉はあの頃のままで安心した。ノスタルジーに背中を押されて、重いノブを回すと、薄暗い光がさした。
「おお、ひさしぶり」
マスターである“彼”は、まるで1週間前に顔を合わせたばかりかのように、私を笑顔で出迎えてくれた。
「メールが来たから。いい?」
「もちろんだよ」
中上崇。私が昔、愛した男。彼は、構えることなく私に問いかけた。
「ご注文は?」
「…じゃあ、ビールで」
私も普通を装って答えると、彼はうっすら苦い顔を見せる。
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