第2次世界大戦を3等身アニメで再検証する戦争映画「ペリリュー 楽園のゲルニカ」

更新日:2025-12-07 17:03
投稿日:2025-12-07 17:00

 第2次世界大戦終戦から80年の今年。数々の激戦を生き抜いた奇跡の不沈駆逐艦を描いた「雪風YUKIKAZE」、終戦終結を知らずに木の上で2年間“孤独な戦争”を続けた2人の兵士を映し出した「木の上の軍隊」など、節目の年に合わせた戦争映画が公開されてきた。その末尾を飾るのが、12月5日から上映しているアニメーション映画「ペリリュー 楽園のゲルニカ」である。

 この作品は第46回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した、武田一義による同名漫画のアニメ化。1944年9月から約2カ月半にわたって繰り広げられた、パラオ南西部ペリリュー島での戦いを中心に、日本軍の兵士・田丸が持久戦を生き抜いていく姿を描いている。

 キャラクターは3頭身で見た目が可愛いが、中身は戦場で戦闘や飢え、病気やけがによって命を失っていく兵士の姿を、真摯に描いている。漫画家志望で、仲間の最期の雄姿を書き記す功績係になった田丸をはじめ、銃撃が得意で勇猛な彼の相棒・吉敷、軍隊の規律を守ることを第一とする片倉、どこか飄々と戦局を見つめている小杉。個性的な登場人物を配して、美しい南国の自然には不似合いな、緊張感あふれる戦場の日々がつづられる。

 アニメーションの戦争映画といえば、日本では「火垂るの墓」(1988年)や「この世界の片隅に」(2016)「窓際のトットちゃん」(2023年)など、戦時における本土での日本人の生活を描くことで、戦争の愚かさ、恐ろしさを表現するものが多い。零戦の開発に携わった主人公を描く、宮崎駿監督の「風立ちぬ」(2013年)にしても、機体の無残な残骸は出てくるが、戦地での戦闘シーンは登場しない。戦場そのものを描いた作品は思いのほか少なくて、それはやはり人間の死を直接描くことの難しさがあるからだろう。今回の作品はそこに踏み込んでいる。アニメーションは絵の動きによってキャラクターに命が吹き込まれるわけだが、逆にいえば銃撃を受けてキャラクターが死を迎えたとき、実写映画で俳優が演じる以上に、亡くなった者が命のない物体になってしまった感覚が強烈に伝わってくる。ある意味、戦場を映した実写映画よりも戦争の怖さがダイレクトにイメージされるのだ。

 中身はハードだが、可愛いキャラクターの見た目が厳しい戦場の現実を和らげ、さらに田丸役の板垣李光人、吉敷役の中村倫也が声の出演者として、ある種の軽やかさを作品にもたらしている。映画の後半では、ペリリュー島での戦いを生き抜いた田丸たちが、その後も終戦を知らず、史実通りに戦闘終結から2年半後に武装解除するまでが描かれるのだが、島にいた日本兵士1万人のうち、生き残ったのはわずか34人。その無益な戦いに身を投じた兵士たちの心情を、板垣と中村は感情に走らず的確に表現している。

 今回の映画と似た題材としては戦時中のサイパン島で、タッポーチョ山を根城に日本の兵士47人が4万5000人の米軍を相手に、戦争終結後も戦った大場大尉たちの実話を描いた「太平洋の奇跡─フォックスと呼ばれた男─」(2011年)という竹野内豊主演の実写映画もあったが、アニメーションで南方の持久戦をここまでリアルに描いた作品は珍しい。第2次世界大戦のことを再検証する戦争映画は、毎年夏に公開されることが多いが、この映画こそ終戦80年に戦争を二度と引き起こしてはならないと見る者に感じさせる、真打ちの作品といえる。

(金澤誠/映画ライター)

  ◇  ◇  ◇

 金澤誠氏の映画・名優評は他にも。関連記事【もっと読む】「国宝」が22年ぶりに邦画歴代興行収入1位を更新 大ヒット作“20年周期”の法則…では、「国宝」をめぐるヒットの法則を分析。

エンタメ 新着一覧


国分太一5カ月ぶり公の場での謝罪は“涙の引退”会見か…日テレと「対立する気はない」も復帰は困難 
 6月に解散したTOKIOの国分太一(51)が11月26日、都内で記者会見した。国分は6月に過去の複数のコンプライアンス...
2025-11-28 19:18 エンタメ
timelesz篠塚大輝“炎上”より深刻な佐藤勝利の豹変…《ケンティとマリウス戻ってきて》とファン懇願
 アイドルグループ「timelesz」の人気に陰りが見え始めている。事の発端は、メンバーの篠塚大輝(23)が11月18日...
2025-11-28 19:18 エンタメ
北川景子が果敢に「汚れ役」挑戦のワケ…「ばけばけ」では"魂を売った物乞い"、映画ではシンママドラッグ売人
 NHK連続テレビ小説「ばけばけ」で、結った日本髪もボサボサの北川景子(39)が演じた"魂を売った物乞い"姿は、ファンは...
2025-11-26 17:03 エンタメ
松本人志は後輩芸人の判決にニンマリ? 登録50万人→なし崩し的に地上波復帰に向かいそうな「危うい空気感」
「ダウンタウン」の松本人志(62)に女性を紹介したとする写真週刊誌「フライデー」の記事で名誉を毀損されたとして、吉本興業...
2025-11-28 19:18 エンタメ
「永野芽郁不在」「3億円トラブル報道」「紅白リハーサル」…2025年の今田美桜のクリスマスは“三重苦”の様相
 12月25日まで1カ月を切った。世間では、いよいよクリスマスムードが高まっているが、2025年のクリスマスを青息吐息で...
2025-11-28 19:18 エンタメ
「ばけばけ」SNSで“ウグイス”ネタバレは残念だけど…ご令嬢は「バイプレイヤーズ」の紅一点、ライバルにぴったり!
 トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)は、リヨ(北香那)にプレゼントされたウグイスを花田旅館でお披露目していた...
桧山珠美 2025-11-25 17:02 エンタメ
橋本環奈に新たな逆風…フジ月9参戦で“風評被害”払拭へ、元ヤン医師役で勝負の大一番
「たとえ事実無根だとしても、一度染みついたイメージを回復するのがいかに難しいか、ですね」と大手芸能プロ幹部はため息をつく...
2025-11-28 19:18 エンタメ
「嵐」ラストコンサート日程発表でいよいよ始まる“最後の狂騒曲”…ホテル難民続出? ベビー向けグッズも発売か
 国民的アイドル「嵐」のラストコンサート「ARASHI LIVE TOUR 2026 We are ARASHI」の日程...
2025-11-28 19:18 エンタメ
嵐ラストで「500億円ボロ儲け」でも“びた一文払われない”性被害者も…藤島ジュリー景子氏に問われる責任問題
 STARTO ENTERTAINMENTが嵐のコンサートツアーを22日に発表したことで、旧ジャニーズ事務所社長の藤島ジ...
2025-11-28 19:18 エンタメ
【芸能クイズ】紅白司会の“やらかし”。2015年の綾瀬はるか、SMAPへの失態を覚えてる?
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
「ばけばけ」でヘブンさんが好演だが…ドラマに外国人俳優が少ない不思議
【桧山珠美 あれもこれも言わせて】 「♪日に日に世界が悪くなる~」。気がつけばハンバート ハンバートの主題歌「笑ったり...
2025-11-23 17:03 エンタメ
NSC格安講師 NON STYLE石田の道端から始めた漫才への愛情
【今週グサッときた名言珍言】 「(1カ月)2時間が7コマ。で、9万!」 (石田明/フジテレビ系「さんまのお笑い向上委員...
2025-11-23 17:03 エンタメ
【独自】江角マキコが名門校との"ドロ沼訴訟"に勝訴していた!「『江角は悪』の印象操作を感じた」と本人激白
 元女優の江角マキコさん(58)をめぐり、一部週刊誌が「泥沼の訴訟トラブル」などと報じていた民事裁判で、江角さんが勝訴し...
2025-11-23 17:03 エンタメ
今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず
 今田美桜(28)の所属事務所「コンテンツ・スリー」が、大手芸能事務所「ケイダッシュ」グループの「田辺音楽出版」から、約...
2025-11-23 17:03 エンタメ
木村拓哉主演映画「TOKYOタクシー」好発進も…原作とかけ離れた《イケオジぶり》がアダとなる恐れ
 11月20日放送の「秋山ロケの地図」(テレビ東京系)が話題になっていた。お笑いトリオ「ロバート」秋山竜次(47)がMC...
2025-11-22 17:03 エンタメ
27年度前期朝ドラ「巡るスワン」ヒロインに森田望智 役作りで腋毛を生やし…体当たりの演技の評判と恋の噂
 女優の森田望智(29)が、2027年度前期のNHK連続テレビ小説「巡(まわ)るスワン」のヒロインを務めることが、11月...
2025-11-28 07:33 エンタメ