一線を越えた3度目のデート
それからも、やりとりは続いた。ランチの写真、出張先の風景、日々の何気ない報告。
――このお店、今度一緒に行こう。
――綺麗な景色を見ると、霧子さんにも見せたくなる。
「彼の存在が、日常に入り込んでいきました。パート先でも、つい笑顔が増えてしまって。『最近きれいになったね』と同僚に言われたときは、嬉しくて…でも少し怖くもなりました」
そして、出会いから1か月半が経ったころ。3度目の約束の前日、将人さんからメッセージが届いた。
――明日は、夕食のあとホテルに行こうと思っているけど、大丈夫かな。
「異論はありませんでした。ずっと、誰かに抱きしめられたいと思っていましたから…」
都内のシティホテルで、ふたりは一線を越えた。罪悪感よりも、「女として見てもらえた」という実感が、霧子さんの心を満たしていた。
当然、将人さんも同じ気持ちだと信じていた――あの瞬間までは。
残酷なメッセージに愕然
「帰りの電車の中から、『今日はありがとう。これからもお付き合いしていきたいです』とLINEしました。混み合う車内で、ドアのそばに立ちながら、返事を待っていると…思いもよらないメッセージが届いたんです」
――ごめん…霧子さんのこと、好きになれそうにない。今後、交際はできない。
一瞬、意味が理解できませんでした。
――どういうこと?
――相性が悪いって、分かったんだ。もう会わない。
――どうして関係を持ったの? 遊びだったの?
――遊びじゃないよ。本気だった。
――じゃあ、なぜ?
――関係を持たないと、分からないこともあるだろう?
「その言葉を見た瞬間、体の力が抜けて、崩れ落ちそうになりました。私の何がいけなかったの? どの部分が相性が悪いと感じたの? ―もちろん、そんなことは怖くて聞けません」
その後、どうやって家に帰ったのか、ほとんど覚えていないという。
塾から帰ってきた息子に「ママもお出かけだったの? きれいな格好だね」と声をかけられて我に返り、バスルームでシャワーを浴びながら、声を押し殺して泣いた。
「相性が悪いなら、それはそれでいい。でも…もう少し、伝え方があったはずですよね。『関係を持たないと分からない』なんて、あまりにも残酷です」
天国から地獄に突き落とされ
翌日、霧子さんは「風邪」を理由にパートを休んだ。
「夫以外と関係を持った罰なのかもしれません。一気に、天国から地獄に突き落とされた気分でした。しばらくは、立ち直れないと思います」
そう語りながら、霧子さんは静かに目を伏せた。
誠実さや正直さは、美徳である一方で、時として人の心を深くえぐる刃にもなる。
悲しい結末ではあったが、彼女は「今回のことは、勉強になりました」と受け止めている。
霧子さんが笑顔になれる日が訪れることを、願わずにはいられない。
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