半世紀前のこの国で夢のような音楽が本当につくられていた

更新日:2025-12-27 17:03
投稿日:2025-12-27 17:00

【1975 ~そのときニューミュージックが生まれた】

 1975年のニューミュージックとは一体なんだったのか④

  ◇  ◇  ◇

 これまで約160回続いた連載を通して見てきたこと。1975年、それは「ニューミュージック」が確立した時代。「戦う音楽」から「個人的・内省的な音楽」への転換点、そして歌謡曲との対立から融合への転換点だった時代。

 これですべて言いきれたのか。いや、たった1つだけ言い残したことがある。それは──「そんな1975年の音楽シーンはめっちゃ面白かった!」。

 目を閉じて、半年を超える連載の内容を思い出してみる。目を開けると、そこは野外のライブ会場だ。つま恋のようだ。

 吉田拓郎が大声で叫んでいる。

「朝までやるよ! 朝まで歌うよ!!」

 後ろにいるバンドは愛奴だ。ドラマーは浜田省吾。浜田はドラムセットを思いっきり蹴飛ばしてしまい、シンバルが音を立てて、吉田拓郎の近くまで転がっていく。それでも愛奴は「二人の夏」で素晴らしいハーモニーを聴かせる。

 愛奴に代わって荒井由実が登場。「ルージュの伝言」でコーラス隊を務めるシュガー・ベイブから爆発的なハイトーンを響かせるのは、もちろん若き山下達郎だ。

 続いて登場するのは矢沢永吉。歌い終わったユーミンがMCで「『ルージュの伝言』は永ちゃんから聞いたエピソードから作りました」と話す。

 対して永ちゃんは、「でも最近は妻に、毎日こう言ってます」と言って「アイ・ラヴ・ユー、OK」を歌い始める。

 その後、井上陽水が、ゆっくりと登場。サディスティック・ミカ・バンド解散後すぐの後藤次利と高中正義をバックに「青空、ひとりきり」を決める。

 トリは中島みゆきだ。バックには、いつのまにかオーケストラが控えていたが、中島みゆきは、指揮者に耳打ちをして、オーケストラではなく、自らのギター1本だけで「時代」を歌い上げる。

「♪まわるまわるよ時代は回る」──このリフレインを彼女は何度も何度も繰り返す。

 そして「まわる」が50回を数えたとき、瞬時に50年、半世紀の時が過ぎ去り、私は2025年の年末に舞い戻った。

「1975年、めっちゃ楽しかった……」

 私は気分がよくなり、一杯やろうかと思うのだが、でも結局、杯を置く──「よそう。また夢になっちまうといけねえ」。

 そう、これまで見てきた夢のような音楽は、決して夢なんかではなく、半世紀前のこの国で、本当に、実際につくられたものばかりなのだから。

 ご愛読ありがとうございました。 (おわり)

■いよいよ最終回!半年以上に及ぶ連載へのご愛顧と感謝を込めて、スージー鈴木が動画で実演解説する「1975年あたりのユーミン コード革命

■著者最新刊「日本ポップス史1966-2023~あの音楽家の何がすごかったのか」 絶賛発売中!Amazonでのお求めはこちらから

■好評連載「沢田研二の音楽1980-1985」をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」(日刊現代/講談社)発売中!

▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。早大政治経済学部卒業後、博報堂に入社。在職中から音楽評論家として活動し、10冊超の著作を発表。2021年、55歳になったのを機に同社を早期退職。主な著書に「中森明菜の音楽1982-1991」「〈きゅんメロ〉の法則」「サブカルサラリーマンになろう」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。最新刊「日本ポップス史 1966-2023: あの音楽家の何がすごかったのか」が11月に発売予定。ラジオDJとしても活躍中。

エンタメ 新着一覧


永野芽郁が「清純派」って誰が言った? 批判するのはお門違いなワケ。江頭2:50への“涙”も大正解!
 日曜劇場『キャスター』(TBS系)で共演中の韓国人俳優であるキム・ムジュンを自宅に連れ込みお泊りし、なんとその翌日に妻...
堺屋大地 2025-05-02 06:00 エンタメ
「あんぱん」蘭子と豪の秘めたる恋に“過去の名作”を思い出す。河合優実は百恵ちゃんによく似ている
 縁談の返事をしに出掛けた蘭子(河合優実)を連れ戻したのぶ(今田美桜)に、蘭子は本心を明かす。季節は巡って秋になり、うさ...
桧山珠美 2025-05-01 19:16 エンタメ
なにわ男子・道枝駿佑は“肉食女子”から守られたのか?「キャスター」男性俳優陣が気になるよ
 芸能界広しといえども清純派と呼べるのは芦田愛菜だけ。長年、そう訴えてきましたが、今回の一件が図らずともそれを証明したの...
共亜事件は「虎に翼」のオマージュか。あんぱん、ブギウギの3人が同時代を生きている
 昭和11年、家族や嵩(北村匠海)に見送られ、のぶ(今田美桜)は女子師範学校の寮に入る。軍国主義の担任・黒井雪子(瀧内公...
桧山珠美 2025-04-28 18:40 エンタメ
「あんぱん」最後まで毒親だった登美子(松嶋菜々子)。去っていく彼女に問うてみたいこと
 受験したのぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)の明暗が分かれる。静まり返った柳井家で、寛(竹野内豊)たちに頭を下げる嵩。そこ...
桧山珠美 2025-04-26 12:50 エンタメ
春ドラマの評判を調査!『最後から二番目の恋』は令和の鬼渡?『あんぱん』『対岸の家事』の感想は
 2025年4月期も話題のドラマが続々スタート! 多すぎてどれを見るのか迷ってしまう…。そんな人のために忖度なしでドラマ...
「あんぱん」千尋(中沢元紀)は本当に良い子…史実どおりの展開なのか。しょくぱんまんのようなイケメンだ
 けんかした嵩(北村匠海)と千尋(中沢元紀)に、寛(竹野内豊)は改めて後継ぎはいらないと告げる。そして、何をしながら生き...
桧山珠美 2025-04-23 17:51 エンタメ
こうでなくちゃ! 志尊淳の正解を「恋は闇」で見た。いい人よりも“妖しい姿”に妄想が駆り立てられる
 新ドラマ「恋は闇」(日本テレビ系)の志尊淳が良きです。  前クールの「日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった...
「あんぱん」なんて贅沢!今が旬、河合優実の“目で語る”表現力と色気に驚く。俳優・ソニンのEE JUMP感を消した演技も見事
 なりたい夢を見つけたのぶ(今田美桜)は、女子師範学校合格に向けて猛勉強をし始めるが、成績が思わしくなく頭を抱える。同じ...
桧山珠美 2025-04-21 14:23 エンタメ
怪演・市原隼人に「ヤバい超大物」2人が熱烈ラブコール。迫真すぎる“ガンギマリ”の演技がモテる理由か
 大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)にて、盲目の大富豪にしてゾクッとする異様な雰囲気を放つ鳥山検校を怪演...
堺屋大地 2025-04-21 06:00 エンタメ
ラランド・サーヤは「名誉男性」なのか? お笑い界の“女すぎる”という悪口に思うこと
 ラランド・サーヤが参加するバンド「礼賛」が大阪で行ったライブで、痴漢行為が発生。被害女性がSNSで被害を訴えたことで発...
帽子田 2025-04-20 06:00 エンタメ
「あんぱん」松嶋菜々子の“毒”さえチャーミングにする厄介な美しさ。ドキンちゃんにも見えてしまった
 8年間音沙汰のなかった登美子(松嶋菜々子)が突然帰ってくる。登美子に対してわだかまりが残ってはいるものの、自分の漫画を...
桧山珠美 2025-04-19 06:00 エンタメ
「あんぱん」登美子(松嶋菜々子)の登場が不穏…色っぽいけど。貴島中尉(市川知宏)は“あのキャラ”を意識?
 新聞社に出した漫画で賞金をもらい、ご機嫌の嵩(北村匠海)。一方のぶ(今田美桜)は、パン食い競走で転びそうになったところ...
桧山珠美 2025-04-17 16:02 エンタメ
カトパンへの嫌味に物議…新井恵理那は承認欲求のカタマリか、悪役を演じる聖人か?
 昨年3月、8年間出演して総合司会も務めていたテレビ朝日系の朝の情報番組『グッド!モーニング』を降板したフリーアナウンサ...
堺屋大地 2025-04-17 06:00 エンタメ
【募集】春ドラマ何見る? 面白かった&ガッカリを教えて!『最後から二番目の恋』『あんぱん』etc
 コクハクでは2025年春ドラマを対象としたアンケートを実施します。4月よりスタートした春ドラマ、「期待している」「面白...