地味な女に負けた? 夢を諦めた“こたつライター”の「プライド」が砕かれるまで

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-10-12 06:00
投稿日:2024-10-12 06:00

【大崎の女・石塚 華34歳 #2】

 大崎の高層マンションに暮らす華は、テレビ局に勤める夫・大輔と二人の子供に囲まれ悠々自適な専業主婦生活を送っている。毎日テレビとネット三昧で暮らしているが、実は片手間で下世話な記事のライターをしていた。【前回はこちら

 ◇  ◇  ◇

 1記事を仕上げると入ってくるのは、スキマバイトを半日こなしたのと同じ程度の金額だ。

 しかしながら、見知らぬ街のコンビニや町はずれの倉庫や港湾に出向かずとも、クーラーのかかった快適な部屋で、同様の金額が稼げる自分に、私は誇りを感じている。

 どこかで誰かが言っていた。
 
『ネットのライターは、誰でもできる簡単なお仕事』だと。

「こたつ記事」ライターにもプライドがある

 そんなことはない。

 注目を集める切り口を提案して、サッと書き上げられる速さや、記事にできるネタを選別しながらテレビを見続けられるのは、執筆スキルやセンス、技術がなければできないはずだ。

 私のようないわゆる「こたつライター」と括られる人の中には、本格的な取材記事の片手間で執筆している記者や、メディアを運営するための土台と割り切ってPVを稼いでいる人だっている。雑にまとめないでほしいと思う。

 依頼されてたまにやる、コストコ商品紹介記事やドラマのレビュー記事も、ある意味取材をしているし、こたつ記事とは定義されたくない。

 ――まぁ結局は、何言われようとどうでもいいけど。私は所詮、お小遣い稼ぎだし…。

 適当に仕事と向き合う自分を嗤いながら、私はテレビを横目にキーボードを叩く。今日もじっくり丁寧に淹れたコーヒーはおいしいし、休日に焼いた手作りパンは香ばしい。眺めも最高な部屋。優しい夫、元気でかわいい息子たち。

 今の生活の不満は、リビングの大きな窓から差し込む朝陽が眩しすぎるくらいだ。季節はもう秋なのに、今もクーラーは絶賛稼働中である。

 記事を書き終え、のんびりソファに座っていると、編集長の礼香から私が先日書いた「秋アニメ声優イケメン5選」の記事がPV数で1位を獲ったという連絡が入った。

見覚えのある名前が飛び込んできた

 どれどれ…と、webサイトを開き、優越感に浸る。数字だけで実感はわかないが、1位は嬉しいものだ。

 筆名で開設しているXにアクセス1位報告のスクショをするため、一旦ページを更新した。

 すると、アクセス1位は変わらずとも、トピックス欄にサイトと提携している新聞社系のニュースサイトの記事が上がってきた。

『小説よだか新人賞 大賞は臥上玖美さん(34)に』

 思わず目を留める。自分と同い年の、その名前には見覚えがあった。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


もはや付録が本体では??「美ST」1月号の“現品リップ+糸リフト級マスク”で元が取れすぎる。
 今月も美STがすごい。2026年1月号特別版を買ってみました。特別版は1,150円ですが「定価1,540円の現品リップ...
スナックの良し悪しは「ポテトサラダ」で決まる? ホステスが確信する“自分に合う”お店選びの極意
 自分に合うスナック、ぜひ大人のみなさんには見つけていただきたい!  ただやっぱり好みは人それぞれなので、なかな...
5歳児がHIPHOPで“国会”を学べるなんて! 庶民の私が娘を「知育教室」に通わせたワケ
「みーちゃんも試験うけて高級なおりこうさん学校いくよ」――保育園年長の娘が突然の“お受験宣言”。庶民的な家庭に生まれ、高...
イカ耳で警戒中! まあるい尻尾の“にゃんたま”先生、相変わらずキュートだね♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
中年よ、大掃除はお早めに! 冷蔵庫掃除に悪戦苦闘…おばさんが陥った“経年劣化”によるワナ
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
私の子どもは見えてないの? 写真がない孫の存在…義母の“愛情の序列”を思い知った母の決意
 幸せなはずの結婚生活に影を落とす、姑との問題。令和の時代でも根強く残る嫁姑トラブルに直面したケースをご紹介します。
「ぴかるです」と言うたび笑われた…偏見だらけの社会でも“自分の名前”で生きる。22歳大学生の決意
 キラキラネーム、シワシワネームなど年代によって“名前”の傾向が異なります。名前が“社会的ラベル”になる現代では、名前を...
「プレゼント渡さないで」って知らんがな!ママ友クリスマスでの最悪エピ4つ。ミスるとぼっち確定?
 クリスマスまであと一カ月。これからママ友とクリスマスイベントをする予定がある方は、トラブル回避のために必見! 今回は、...
美少年から国宝級“にゃんたま”まで!もふもふ9連発は「可愛い奇跡」がいっぱい♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 2025年10月にご紹介したもふもふ・カワイイ・ちょっとはずか...
神様ありがとう…!ふわふわ“にゃんたま”が可愛すぎて感謝するレベル。猫は人類を癒す
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
【動物&飼い主ほっこり漫画】第107回「復活のアフロ!」
【連載第107回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽの...
【漢字探し】「橋(キョウ)」の中に隠れた一文字は?(難易度★★☆☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
「誰よりも頑張っていた」に号泣…心に響いた恩師の言葉4つ。叱咤も温かい言葉も忘れない
 学生だったあの日も、遥か昔…。アラサー・アラフォーになると思い出は徐々に薄れていきますよね。でも、心に響いた温かい言葉...
可愛すぎやろ! 母のLINEに“キュン”連発♡ トーク画面はメモ帳じゃないってば
 自分を育ててくれたお母さんを「すごい」「敵わない!」と、尊敬している人も多いでしょう。でもたまに見られる可愛い姿にクス...
それ、実は「マネハラ」です。身近にある“お金”のハラスメント。飲み会への強制、プレゼント代徴収もアウト!?
 お金にまつわるあらゆるハラスメントを指す「マネーハラスメント=マネハラ」をご存じですか? 実は身近なところで遭遇する機...