夢を諦めた2人と再会。すみれが感じた印象は
待ち合わせ場所は、あの頃よく訪れていた町中華であった。
交通の便的に、品川の適当な店の方が都合よかったのだが、恐らく2人はノスタルジーに浸りたいのだろう。私はまだその「ノスタルジー」中の現役なのに。実家が戸越なので、今も西大井はたまに来る。
「すみれちゃんー、こっちこっち」
「すみれは全然変わってないね!」
麻梨乃さんと翠さんは、見た目こそ時の流れを感じるが、その温かい表情はあの頃のままだった。
「お久しぶりです。お2人ともお元気そうで」
そうは言ったが、麻梨乃さんは疲れが顔と髪に表れていた。ただ、3児の専業主婦だから仕方がない。一方、翠さんは、異様な程ピカピカの肌。恐らく美容医療の類の何かをしているのであろうか。
「変わらない」という言葉をそのまま受け取るのなら、私だって嬉しいものだ。変化がないのはいまだ人前に立ち続けているからだろう。
尊敬していた彼女は雑な「イジリ」をする主婦に
「いつ振りだっけ?」と麻梨乃さん。
「3人揃って会うのは、私のコンビの解散ライブ以来ですかね。8年前」私は答えた。
「ああ、やってたね。相方さんは後輩だよね。てか、今何してるの?」
翠さんがそう聞いてきたので、「相変わらず芸人です。舞台に立って、作家業もしてますよ。この前のR-1もそこそこいいところまで行きました」と言うと、2人は「すみれちゃんのことじゃなくて!」と大声で笑った。
どうやら、元相方の現在を聞いたようだった。確かにそうとも取れるが、自分のことを聞かれているようにも取れるから、私はヘマしていない。
「もー、相変わらず天然ボケね」
彼女が言う天然の定義の緩さにイラっとしたが、所詮素人、大きな気持ちで受け止める。
麻梨乃のワードセンスに実はかつて一目置いていた。なのに、もう雑なイジリをするだけの主婦に成り下がっていたことが悲しかった。
悪口を言うことで、幸せだと確認したいんだ
「元相方は今、ITの社長をしていますよ。年商3億だとか」
「ええー! 本当に!?」
「ケントくんだっけ。まあ、口はうまかったからね。どこでもやっていけそう」
「年商で3億って実は大したことないよね。表面上の税金対策かな」
「そう言えば、同期の…誰だっけ、アレ。家族で東北旅行行った時に、地元番組でレポートしてて、なんか偉そうで、笑っちゃった――」
2人の愚痴が聞けて、ネタ探しができると思っていたのは間違いだった。
そこにいたのは、昔の友人をdisることで現在地の正しさを確認して、今、自分が幸せだとやみくもに思い込んでいる女たち。
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