彼の目が「男」に
ここで咲子さんは賭けに出る。飲みかけのカクテルグラスをわざと倒したのだ。
「お酒は残りわずかでしたが、テーブルにはコリンズグラスが転がり、中身はすべてこぼれてしまって…バーテンがさっとおしぼりを渡してきました。そしてイケオジもこちらを向いて『大丈夫ですか?』と話しかけてきたんです。
私はテーブルを拭きながら『ええ、大丈夫です。ビックリさせてしまってごめんなさい』と告げ、彼の目をじっと見つめました。その瞬間、彼の目が『男』になったのが分かったんです。
実は彼…同期CAの旦那さま。結婚式の二次会で私が幹事を務めたからよく覚えています。でも、彼は気づかない。むしろ気づかないことに安堵しましたね」
その後、彼のほうから「おひとりですか?」「よかったら、少し話しません?」と隣の席に移動してきたという。
男性は同期の夫
「その男性は、大手商社に勤める茂樹さん(39歳/既婚子供アリ)です。同期CA・菜々美と結婚したのが26歳の時なので、4年ぶりの再会ですね。
菜々美は独身時代、交際中の彼がなかなか結婚を決断してくれないことに不満を抱いていたようで、『授かり婚』をもくろんだヤリ手です。
私は『広報要員にもなれなかった菜々美が、こんないい男と結婚するなんて』と心の中で毒づきました。それからは、茂樹さんと声を潜めて話し始めました。もちろん、私がCAということは隠して。
お互いの素性を隠したまま
――あなたのようなキレイな人がひとりで飲んでいるなんて…。
彼は照れながら、そして口説きともとれる口調で告げてきたんです。私は心の中でほくそ笑みました。
――リップサービスでも嬉しいです。このバーは夜景が美しいからひとりで飲みたい時、時々来るんですよ。
――失礼ですが、お仕事は空港関係の人?
――ナイショ。その代わり、私もあなたが何者かを聞きませんから。
話しているうちに、彼の声がしだいに艶めいてきました。
――実は僕、上海に住んでいて今回は一時帰国なんです。明日には日本を発つんですが…あなたと離れるのが惜しいな。
彼の眼光が鋭さを帯びました。私も微笑を浮かべてこう返したんです。
――私も…今、同じことを考えていたの」
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