「女装」を封印し、父親に徹する
「不倫の行方は3パターン。略奪婚するか、別れるか、現状維持。私は現状維持を願っていたのですが…。
1年ほど経ったころでしょうか。直樹さんが珍しく神妙な表情で赤坂の店に来たんです。
――ごめん、妻に言われたんだ。そろそろ息子のお受験だから、協力してほしいって…。
開口一番、直樹さんは予想外の言葉を告げてきた。
――えっ…それって…。
私は目をしばたたかせました。
聞けば、奥さまは直樹さんも通っていた有名私大の後輩。夫婦ともに、幼稚舎から通っていたそうで…息子さんにも同じ道を歩ませたいようです。
妻からの要望―それは「女装のナンシー」を封印し、父としての顔に徹してほしいという意味でした。
――仕方ないですよね。大事な時期ですから。
――ああ、子供にとって環境は重要だと思う。公立がダメというのではなく、夫婦共に学んだ気心が知れた学校だし、安心と安全な環境下で息子の成長を見守りたいし、将来への可能性も広げてあげたいんだ。
――直樹さんの考え、すごくよくわかります。お子様のお受験のためにいくつもの塾に通ったり、引っ越したりするケースもあると聞きました。
――まさにそうだね。受験は親と子供の二人三脚。いや、夫婦だから三人四脚だな」
連絡が減っていき…
菜々美さんは、直樹さんの言葉を聞きながらも、唇を噛んだ。
「夫婦」という言葉が、鋭いナイフのようにぐさりと胸に突き刺さった。
「その日をきっかけに、直樹さんとの連絡が減っていきました。LINEの既読がついても返事はこず、たまに送られてくる短いメッセージには、以前のような情熱も優しさもなくて…。
家庭に戻って、ちゃんと『父親』として過ごしているんだろうなと思いました。私は『ナンシー』にも『直樹さん』にも会えなくなってしまった…まさかこんな形で終わるなんて…本当につらかったですね」
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