監督・脚本・主演“一人3役”に挑んだ初めての作品
みなさんは「松尾スズキ」という名前を聞いて、何を思い出すでしょうか。劇団『大人計画』主宰者? 俳優? 筆者は個人的にずっと思っていました。「何かおもしろい仕掛けを仕込み、人をワクワクさせて楽しませてくれる人」だと。
そして、期待どおり作ってくださったのです。長編監督映画4作目にして初めて監督・脚本・主演全てに挑んだ映画『108~海馬五郎の復讐と冒険~』で。本作は完成披露上映でひっきりなしに爆笑が起きている、抱腹絶倒のコメディーです。
松尾スズキ氏が演じる海馬五郎は人気脚本家。世間でいうところの成功者です。本来であれば(たぶん)イヤな仕事は断れる立場にいるはずなのですが、気が進まない仕事も率先して引き受けます。その理由は3つ。
1. お金が好き
2. 妻が浪費家
3. 妻を愛しているから
3つの理由のうち、2つに妻がランクイン。これだけで五郎が愛妻家だということが分かりますが、中山美穂さん演じる元女優の妻・綾子は年若のコンテンポラリーダンサーと浮気をします。
怒り方ひとつとっても松尾スズキ節
綾子が匿名でFacebookに投稿していた内容を読んで五郎は浮気を知るのですが、自宅でのいさかいは修羅場のはずなのに、どこかコミカル。自身の投稿文の音読を強制されて綾子が泣き出した途端、五郎は原稿の催促をされます。すると、泣いている綾子に向かって五郎は言い放つのです。
「その感情、キープしとけよ! (原稿が)終わったら必ず蒸し返すから!」
“松尾スズキ節”が炸裂。「そんな怒り方する人、いる!?」と、笑ってしまいました。
そして、妻に不貞をはたらかれていると知った五郎の哀しみと怒りは、復讐心へと変貌します。不倫相手の男性に請求できる慰謝料の相場は200万円。五郎の資産は2000万円。離婚すると半分の1000万円を妻に持っていかれます。
「わりに合わない!」と悟った五郎は、資産の半分、1000万円を妻以外の女性を抱く費用にあてると決断するのです。
R18+指定作だけあり、その後はセックスシーンのオンパレード。風俗嬢に「タマがなくなるでしょう~?」と言われたり(そんなこと、あるわけがないのですが)、3Pをするために呼んだ女性2人がレズビアンだったり。綾子を思い出して五郎が萎えると、高級風俗嬢に「ネットに(私が魅力的ではないと)書き込むつもりでしょ!」と激昂されたり。
全員ほぼハダカでエロスなシーンのはずなのに、随所に“松尾スズキ節”が込められていて笑ってしまうのです。
ローションまみれ「女の海」は圧巻
本作で話題になっているのが、「女の海」のシーン。何十人もの男女が、全裸でローションまみれになりまぐわう姿は圧巻です。
松尾氏がいうには、「(糸井役の)岩井(秀人)さんの前貼りが、気づいたらなぜか僕の手の中にありました」とのこと。ローションの粘着力に負けて、外れてしまったのでしょう。想像しながら観ると、さらに楽しめるかもしれません。
個人的に「松尾氏、すごいプランを考えたな!」と感じたのが、五郎の父親が病院で亡くなるシーン。五郎と砂山美津子役の秋山菜津子さんの想像を絶する姿と台詞に大笑いさせられ、坂井真紀さん演じる五郎の妹、海馬マリが大きなオチをつくります。松尾氏自身も、「このシーンで、この映画のポテンシャルが決まったも同然でした」と語っていました。
現代の社会問題にも言及
エロスがピックアップされがちな本作ですが、実は現代の社会問題についても描かれています。結婚は“絶対”を意味する契約ではない事実。離婚にかかる金額。ホストにハマる女性。親の介護問題。この全てをコメディータッチに転換した松尾氏は天才です!
果たして本当に五郎は108人の女性と合体したのか。綾子は本当に浮気をしていたのか。ぜひ大きなスクリーンで確認を。
「108~海馬五郎の復讐と冒険~」は、10月25日より公開。R18+指定。配給:ファントム・フィルム
エンタメ 新着一覧