柄本佑が語る!<後>芝居も生き方も「3割の余白と逃げ道を」

内埜さくら 恋愛コラムニスト
更新日:2021-09-08 11:40
投稿日:2021-09-08 06:00

 黒木華さん(31)と柄本佑さん(34)が夫婦役で初タッグを組んだ映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(ハピネットファントム・スタジオ配給)が、9月10日より全国公開。黒木さん演じる漫画家の早川佐和子の夫であり、不倫中の俊夫を演じた柄本さんのインタビューを、前編に続いて、お届けします。

一番愛しているのは妻という不倫夫を演じて

 ――佐和子が描く漫画は、佐和子と自動車教習所の若い教官、新谷歩(金子大地さん)の淡い恋へと展開します。俊夫は現実と漫画の境界が曖昧になっていき、ユーモラスな行動に出ることもありますが。

 柄本佑(以下、柄本) 俊夫は不倫に向いていない男として演じました。不倫に向いていたら、妻の佐和子には勘づかれずにうまくやり過ごせていたと思うんです。ですが、俊夫は違った。(桜田)知佳(奈緒さん。佐和子の担当編集者)とは流れで不倫をしてしまったのだな、と。

 バカ正直な性格で、不倫をしても一番愛しているのは妻。だから、自分は愚行をしているのに、妻を疑い出すと第三者が見たら笑えるような行動に出てしまう。そういう俊夫の性格をきちんと表現できれば、堀江貴大監督の目指す方向性と合致して成立するのかなと思いました。

 俊夫はマジメに考えた結果、選択肢を間違えて突き進んでいきます。作中で、俊夫のその性格を語る上で一番わかりやすいエピソードがあります。それはラストに近いシーンで、佐和子が描いた漫画同様に、佐和子と歩が自宅に訪れたときのこと。

オクラの誘惑にすら負けるマヌケな男

 佐和子は2階に行って仕事に没頭してしまい、佐和子の母、下條真由美(風吹ジュンさん)と俊夫、知佳と歩の4人でごはんを食べているときに、歩にあることを言われたら俊夫の食事をする手がピタッと止まるんです。お箸でオクラを持ち上げ食べようとした瞬間に。

 その後、「佐和ちゃんと向き合わなければ」と決意した俊夫は2階へ駆け上がるので、本来であればなりふり構わず、オクラもお箸もお茶碗も置いて佐和子に向かうべきだと僕は思っていました。

 ――そこで監督はどのような判断を?

 柄本 監督に「このオクラはどうしましょうか?」と聞いたところ、「食べてから佐和子のいる部屋に行きましょう」と言われました。僕も、俊夫なら絶対に食べるだろうなと思いつつ監督に確認したのですが、一般的な常識の範囲内であれば、食べずに階段を駆け上がるはずなんです。

 でも俊夫は、食べてから佐和子のもとへと向かう。そういうマヌケな男だから不倫もしてしまうし、選択も間違えてしまうんです。しかも意味があってしているわけではなく、そういうヤツなんだという性格が、如実に表れているシーンだと思います。「コイツ、オクラの誘惑にすら負けるんだ」という(笑)。

 観ている方は気づかないかもしれませんし、僕も現場では理詰めで演じたわけではないのですが、この記事をご覧になった方々には、注意して観ていただけると嬉しいです。

“台本の空気”を綿密に具現化

 ――加えて柄本さんだけではなく、黒木さんも役を演じているときに、台詞ではなく表情で物語るお芝居が印象的でした。言葉を発していないのに、心の声が聞こえてくるような。

 柄本 たしかに、俊夫と佐和子が夫婦としてせめぎ合うシーンは表情で語る機会が多く、最近の映画としては珍しいかもしれません。そういうふうに感じ取ってくださったということは、監督やカメラマンさんがそう見えるように撮ってくださったのだと思います。

 ですが目線のやり取りなどは、監督から緻密な指示があったと記憶しています。とくに中盤、車内で佐和子が俊夫に「不倫しているの?」と問い詰める重要なシーンは、何度も段取りをしてどこで目線を合わせるかを決めて演じました。静かに進行しますが夫婦が対決するシーンでもあるので、繰り返して台本の空気を具現化していったんです。

実生活の恋愛で振り回された経験は?

 ――そのシーンでも別の場面でも、俊夫は次第に佐和子に振り回されていきます。柄本さんご自身は、過去の恋愛で振り回された、あるいは振り回した経験はありますか。

 柄本 う~ん……ないですね。妻(安藤サクラさん)と、「明日休みだね。どこに行こうか」という話になると僕がすぐ映画の上映スケジュールを見るので、そういう意味では僕に合わせてもらっているかもしれません。

「休日だから映画を観るのは当たり前でしょう?」という僕の趣味につき合ってもらっているというか。結婚してからは、映画館デートにあまりつき合ってくれなくなり(笑)、毎回「行ってらっしゃい」と、送り出されています。

 僕、映画は映画館でしか観ないんです。家で2時間も座っていられないというか、大きなスクリーンを見上げながら作品を観たい願望があるみたいで。決まって座るのは一番前の下手(しもて)の席です。

 映画は暗闇で見ず知らずの他人と共有する、ある意味危険な環境と感じていて、家の中のような安全な環境だと、真剣に鑑賞できない性質なのかもしれません。

夫婦の安心感は恋人同士のときとは別格

 ――結婚後はおのおの、別に飲みに行く機会も増えたとか。

 柄本 結婚前はお互いをよく知らないので「プライベートの時間は、なるべく一緒にいたほうがいいのでは」という意識が働きがちだった気がしますが、結婚って不思議ですね。夫婦になってからの安心感は、恋人同士のときとは別格です。自分を一番よく理解してくれる、仲間ができた感じです。

 ――そのコメントは別インタビューで、黒木華さんに羨ましがられていましたね。では、結婚している柄本さんからは、俊夫と佐和子という夫婦はどう映りましたか。

 柄本 俊夫と佐和子は同じ職業に就きながら、映画の冒頭から俊夫が不倫してしまっているんですよね。だから、世話の部分(日常の些細なやり取り)があまりないので、夫婦たる瞬間があまり描かれていないんです。ですが、佐和子は漫画家、俊夫は佐和子のアシスタントで同業者として働いているので、あうんの呼吸で生活はできている夫婦なのかな、と。

 ある種、憧れる夫婦の形かもしれません。2人は仕事を通して時間を共有していますが、たとえ仕事が別々であっても、空気の共有の仕方に「いいなあ」と思う方もいらっしゃると思いました。

内埜さくら
記事一覧
恋愛コラムニスト
これまでのインタビュー人数は3500人以上。無料の恋愛相談は年間200人以上の男女が利用、リピーターも多い(現在休止中。準備中のため近日中にブログにて開始を告知予定)。恋愛コメンテーターとして「ZIP!」(日本テレビ系)、「スッキリ」(同)、「バラいろダンディ」(MX-TV)、「5時に夢中!」(同)などのテレビやラジオ、雑誌に多数出演。

URL: https://ameblo.jp/sakura-ment

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


若手のやる気を奪う「新型パワハラ」とは? 気づかないうちにやりがちな注意点5つ
 上司から部下に強い態度をとる「パワハラ」は有名ですが、実は今「新型パワハラ」と呼ばれる新しいワードが話題になっています...
ねこの学校の給食タイムに潜入♡ ごきげんシッポで“たまたま”チャンス
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
少し風が吹いて欲しいと思う夕暮れ時
今年も残すところ2カ月。 新しい風、起こせたかな。
【女偏の漢字シリーズ】「女偏+眉」と「態」を合わせた二字熟語、意味と読み方は?
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
「昔はモデルやってたんだ」へぇそうですか。嘘ばかりつく女をやり込めた胸スカLINE3選
 世間には、どうしてもマウントを取りたくなって嘘ばかりつく女性がいるもの。とくに、日常的にLINEなどで嘘をつかれるとと...
上垣皓太朗アナのフジ先輩らによる容姿いじりが大炎上。職場や友人間のいじめといじり、境界線は?
 今年4月にフジテレビに入社した上垣皓太朗アナ(23)に対する先輩たちのいじりを収めた動画が炎上した件。7月にアップされ...
いるよねー、グループLINEで会話を止めてしまう人。あるあるでモヤモヤを共感して欲しい!
 大人数での会話では、みんなが楽しく話せるように空気を読んだり、流れを止めない気遣いが大切ですよね。  でもよくい...
40女“ダラダラ家飲み”卒業の3つのコツ。風呂上がりのビールよ、さらば!
 思うところありまして、家飲みを控えております。夏の暑さを言い訳に、家でもビールをダラダラ飲みまくった結果、下腹が過去最...
深まる秋にピッタリ! “たまたま”の後ろ姿にただよう漢の哀愁
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
年上? 給料高い? それでも尊敬できない先輩のタイプ6選。雑談は恋バナオンリーってJKかよ!
 職場で頼りにする相手といえば、やはり先輩。上司よりも身近な存在で自分よりも人生経験と社会人経験が長い先輩は、憧れの対象...
「旦那死ぬよ!」住職から叱られて以来、大事な“トイレのあれ”。運気アゲアゲ狙うなら「水回り」が狙い目
「どうやったら幸せになれるのか」その方法を探してしまうのが悲しいかな、人間の性でございます。
妻のわざと誤爆LINE6連発。モチロン確信犯です、浮気夫もウザい義母もお黙りっ!
 LINEを巧みに使って夫や姑ににわざと誤爆LINEを送り、関係を上手にコントロールする妻が増えているようです…! ...
政治家とは無縁の人生を送ってきたが、「ポンコツ」って⼈気者なのか?
 本コラムは、地元の“幽霊商店会”から「相談がある」と言われ、再始動の先導役を担う会長職を拝命することになったバツイチ女...
“小1宿題あるある”6選。お願いだから、タブレットは丁寧に扱ってー!
 小学校に入学したての頃、はじめての宿題でとんでもないミスをする我が子(笑)。この時期にしか見られないあるあるに思わずほ...
「低気圧と月と更年期」が連動? 天気頭痛とは無縁で、おばさんに仕上がったけれど…
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
最近の台風は凶暴さがレベチ! 最低限備えておきたい7つの備えと対策
 異常気象が相次ぐ昨今、大型台風で大きな被害に遭う地域は少なくありませんよね。大切なのは、事前に台風への備えに関する知識...