妻じゃなくてもいい
「もしも今、舞子と付き合っても結婚には進まなかった気がするんですよ。あのときは本当におかしな世の中で、人と会うのも大変って感じだったから、孤独にならずにいつでも肌を重ねられる舞子の存在は大きかったんですよね……。
僕は孤独を埋めてくれる存在だった舞子と、体や心の相性がいいかもって錯覚しちゃったんでしょうね。まぁ、本当にコロナ禍っていうマジックにかかっていただけなんだと思います。
コロナ禍が明けて、まるで何かから目が覚めたように舞子のことがどうでもよくなってしまって。だけど恋人同士じゃなく夫婦ですからね、間違いだったから“ハイ、さよなら”ってわけにはいかないでしょう?
今はね、仕方なしに週イチで妻を抱いていますよ。最中はまぁそれなりに楽しいけれど、舞子じゃなくてもいいかなって思いながら毎週、義務のように抱いています」
離婚したほうがお互い幸せだけど…
本音では、舞子さんとは離婚したほうが、お互いの幸せのためだと感じると話すタロウさん。しかしまだ結婚して数年しか経っていないことから、今すぐに離婚をすると世間の目も気になると強調します。
「もうちょっとだけ……、離婚を先延ばしにしようかなって。そのほうが、選択として賢い気がするんです。
今、離婚したらコロナ禍マジックで結婚したのを世間にも認めるようなものなので、自分自身が悔しいんですよ。ほら、自分の判断が間違っていたのを、自分で認めちゃうようなものだから。
でもねぇ、舞子とはきっとこのまま一緒にいればいるほど、お互いがウンザリし合うのが目に見えていますよね。
仮に舞子が、今すぐ離婚をしたいと言ってきたとしても、そうですかって応じるわけにはいかないですよね。舞子と違って、僕はまわりの目が気になりますから」
◇ ◇ ◇
恋人同士であれ、夫婦であれ、100%同じ価値観を有する男女は稀です。ましてや交際前の男女となれば、なおのことです。少しのすれ違いが、大きな溝に発展することも少なくないのが異性間における現実でしょう。
まさにこれこそが、男女関係における醍醐味にもなれば致命傷にもなる“冷酷と激情”のはざまなのかもしれません。
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