#2 専業主婦がライブ配信にハマるわけ「誰かが私の才能を見出して…」

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2023-11-18 06:00
投稿日:2023-11-18 06:00

ゲストの何気ないリクエスト。実はその曲は…

 麻美は投稿を見て、30秒ほど固まってしまった。

 コメントには『通信切れた?』『どした?』『かたまった』などと、通信環境を心配する言葉が並ぶ。

「ごめんごめん、聞き慣れない曲名があったから」

 そうは言っているが、かつての持ち歌。知らないわけはない。

 なおかつ、その曲は、シングル曲のカップリングであるが自分がアイドル人生で唯一与えられたセンター曲なのだ。

『ゲスト:ごめんなさい。出過ぎたマネを』

 その謙虚な反応に、麻美は愛おしさを感じてしまった。

 他のコメントに返答することも忘れ、サービス精神で“幸福ジェネレーソング”の歌いだしからサビまでをアカペラで披露した。研究員たちはコメントとハート、そしてギフトでその歌声を賞賛した。

「ゲストさんがせっかく入ってきてくれたので、応えてみました。TOWER LOVER……だっけ? 結構マニアックなアイドルだよね。私、アイドル憧れていたから知っていたけど。なになに? 『今からでもアイドルになれる』? ありがとー」

 言い訳がましい早口で、麻美は自分がその歌い手だとバレぬよう研究員たちに伝える。

『ゲスト:ありがとうございました。また来ます』

 ゲストさんはそう残してラボから退出した。

ゲストは“正体”に気がついている

 お昼も過ぎたのでそのまま配信は終了したが、麻美はずっとその存在が頭から離れなかった。

『ゲストさん』は、自分に気づいている。

 恥ずかしくもあったが、それ以上に嬉しさからくる高揚感が胸の奥から湧き上がってくる。

 今でも、自分を気にかけている人がいるなんて……。

 身バレを恐れながらも、どこにでもあるニックネームだから大丈夫だと、とっさに昔の芸名をつけてルームの登録をしてしまったが、その時の浅はかな自分を麻美は褒めたいと思った。

――ゲストさん、研究員になってくれるかな。

 麻美の期待通り、その日ゲストで入ってきた人は、“たわらば一生推し(^^♪) ”というアカウントで登録し、即日フォローしてくれたのだった。

彼の正体にも心当たりが

「『おはよう、まみりん』たわらば一生推しさん、おはようございます。どーも。最近毎日ありがとうね『シフト変えた』えー、プレッシャー。もしや夜勤? 夜勤率高っ! 午前配信だからそのとーりなんだけど。ニートとかいないの?」

 一生推しさんは、プロフィール名やアイコンからわかるように、自身のファンというのは間違いなかった。そして、それとなく、思い当たる当時のファンがひとりいることに気づく。

「あのねー、TOWER LOVERって知ってる? そうそう、“たわらば”。この前はシラ切ったけど、私ね、実はね、その中の一員だったんだよ」

 一生推しさんとだけで秘密を共有することに後ろめたさを感じた麻美は、配信で自分の過去をカミングアウトした。

 みな、反応はゆるく好意的だったが、そのことがSNSで拡散され、研究員の爆増に繋がった。

――私、まだまだイケるじゃない。

 麻美は、引退、そして出産以来、失っていた自己肯定感を再び得たような気がした。

 この充実感。麻美は、ルームのDMを恩がある特定の研究員だけに開放する。

 当然、『あの時のゲスト』さんこと、“たわらば一生推し”さんだ。

 彼に直接お礼と、今でも自分のファンであるのか、改めて確認してみたいと感じたのだ。

#3へつづく:燻る欲望を再燃させてくれたファンに麻美は…】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


自己顕示欲バンザイ! スナックママが教える「自分らしく生きる」ヒント
 みなさん、SNSとかで目立つ人は好きですか? 私はついこの間まで、正直めちゃくちゃ苦手でした。  でも先日、スナ...
東京のごちゃごちゃに疲れる…貸切コンパクトボートで“泡飲み”東京湾クルージングが当たりだった
 都会とは、長年いると何をしていいのか分からなくなる場所である。おいしいご飯もお酒も、どの街にいても味わえる。新しいスポ...
イイ男が大集合♡ 素敵“たまたま”がいっぱいで目の焦点が合わない~!
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
面倒な“かまってLINE”への返信うざ。寂しがり屋のド定番「寝てないアピ」は華麗にスルーがよろし
 いつも話題の中心にいたくて、寂しがりやな「かまってちゃん」。時々ならいいですが、LINEメッセージでもかまってアピール...
諦めないで!猫と共に送る安全な植物生活。花屋が実践する「3つの心得と6つの対策」
 植物は我々の心豊かな生活を送る癒しですが、残念ながら猫にとって有害なものはたくさんあります。  種類によっては中毒症...
うまっ…!期待薄で「メキシカンセット」買ったら当たりだよ。お店の味を再現できた【イオンで発見】
 9月に起こった令和の米騒動。スーパーのお米コーナーからお米が消えました。最近は近所のスーパーでも見かけるようになってひ...
LINEならではのビジネスマナー&言葉遣い。返信タイミングはメールよりシビアになりがちで…
 ビジネスシーンにおいても、LINEでのやりとりは日常茶飯事。  ただ、メールでのビジネスマナーは完璧でも、LIN...
共働き世帯は専業主婦世帯の約3倍! 女性が選ぶべき未来のための選択とは
 セックスレスやセルフプレジャー、夫婦の在り方をテーマにブログやコラムを執筆している豆木メイです。
目は合わせないけど…“たまたま”をチラ見せしてくれた美少年の太郎君にキュン
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
踏切の音
 黄昏る街。  踏切の音が懐かしいのは、一体なぜ?
「紅娘」って読める? ぜっっっったい読めないと思うやつです
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
悪口誤爆→既読スルーの沈黙が怖っ! 顔面蒼白…冷や汗が止まらない義母vs嫁のLINE3選
 世の中で一番LINE誤爆を避けたい相手といえば、「義母」ですよね…。夫と結婚している限り付き合っていかなければならない...
2024-09-22 06:00 ライフスタイル
【45歳からの歯科矯正】本当の苦行は1年半はめていたワイヤー矯正を外したあとだった
 昨年4月に歯科矯正(表側のワイヤー矯正)を始めて、1年半。ついにワイヤーとブラケットを外せることに。想定内のスケジュー...
独身にとって旦那のグチも育児話も「圧」。リスケ不要だからー!気遣いが逆にうざいLINE3選
 人への気遣いは、ときに迷惑になることもあります。これらのLINEがよい事例。相手にとってありがた迷惑な気遣いにならない...
モテは“たまたま”の大きさ次第? 経験豊富なイケニャンを激写
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
発達障害、情緒障害、認知症…花をお求めになるお客様から教わること
 猫店長「さぶ」率いる我がお花屋にはいろいろなお客様がやってまいります。  学校帰りに「ただいま~」なんて...