いかにも「訳あり」な雰囲気の病院
――続けてください。
「中絶の当日は、朝10時に都内のレディースクリニック前で待ち合わせでした。レディースクリニックと言っても、ユリさんが指定してきたのは風俗街の雑居ビルにある病院です。細い裏通りに面していて、灰色がかった看板は、いかにも『訳あり』的な匂いが漂ってきて……。
正直、こんな古ぼけた病院で大丈夫? と思ったのですが、ユリさんは約束の時間少し前に現れました。
――沙雪さん、わざわざありがとう。
私の顔を見るなり、ユリさんはやつれた笑みを向けてきました。
――とんでもない。無事手術が終わるよう祈っているから。ところで、この病院は……?
私がすすけた色の雑居ビルを見上げると、ユリさんは憂鬱な顔で打ち明けました。
いわゆる「闇病院」での中絶を決意
――実は私がネットで探したクリニックは『中絶には、同意書にパートナーの署名・捺印』が必要で……。
涼介さんに言ったら『万が一バレたことを考えて、俺は同意書に署名捺印はしない。その分、多めに払うから』と100万円を渡されて……。知人の元風俗嬢に教えてもらったクリニックなの。
驚くことに、ユリさんの紹介された病院は、風俗嬢や訳ありの患者も通う、いわゆる『闇病院』だったんです。しかも、100万円もだなんて、手切れ金? とも思いましたね。でも、金額には触れず、
――本当にこの病院で大丈夫なの?
私は聞き返しました。
――平気よ。元風俗嬢の友達も通ってたクリニックだから、腕は確かだし、中絶手術もそうとうな数をこなしているみたい。何よりも同意書不要なことがありがたいわ。
――そう、じゃあ一緒に行きましょうか。
彼女はひとりでビルの中へ
私が雑居ビルに入ろうとすると、
――ごめんなさい。付き添ってもらう約束だったけど……やっぱりひとりで行く。
――えっ?
――手術は1時間もかからないそうだけど、その後、ベッドで2時間ほど休まなきゃいけないそうなの。
――ええ、それを承知でパートを休んだのよ。
――手術前に来てくれただけでも心強いわ。でも……ここまでで大丈夫。恩に着るわ。
そう言って、ひとりでビルの中へと消えていったんです」
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