え…? 優雅な御茶ノ水ママ友会をブチ壊した、地方出身者の悪気ない一言

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-01-13 06:00
投稿日:2024-01-13 06:00

楽しいママ友会が一転、綾乃の何気ない一言で…

「これ、秀斗と一緒に作ったクッキー。よろしければどうぞ」

 ある日のレッスンの後、いつものように森さんの家で談笑をしていると、佐橋さんが可愛らしいクッキーを綾乃たちに出してくれた。

「手作りが苦手な方は遠慮していただいても大丈夫よ。秀斗が後先考えずに大量に作っちゃって、うちも食べるのが大変なの」

 そう彼女は言うが、可愛らしいアイシングのクッキーはお店でも出せるレベルの出来であった。

 これを、4歳の息子と作ったというのが驚きである。

「一緒にお料理なんて、さすが料亭の家のお子さんね」

 何気なく綾乃が言うと、高柳さんが不思議そうに目を丸くした。

「あら、香那ちゃんはママと一緒にお料理をされないの?」

「…?」

 質問の意味がわからず、綾乃は口を噤(つぐ)んだ。

 香那はまだ年中の4歳児なのだ。周りの子たちも同じなはず。クッキーを母親と共に作るだけでもすごい、という素直な感想であった。

ママ友たちの話題に抱いた違和感

 すると森さんと高柳さんが何かをフォローするように会話に入ってきた。

「佐橋さん。うちもね、包丁が怖いって、キッチンに入ろうとしないの。お野菜の断面とか、実際に見せておきたいのに」

「まぁ…お料理の工程も見なきゃ覚えられないのにね」

 その会話に相槌を打ちながらも、目の前で繰り広げられる話題の内容に、綾乃はピンとこなかった。

 子供と料理をすることが社会教育の一環だということは理解できる。ただ、それが当然である前提がよくわからないのだ。

 しかし、そこで佐橋さんが放った言葉で綾乃は合点した。

「時間はまだあるじゃない。それに、本当に面接や考査に影響するかもわからないでしょ?」

避けることができない小学校のお受験

――面接や考査って、まさか…。

 香那が生まれた頃に何気なく目にしたテレビ番組で、小学校のお受験について語っていた専門家の話を思い出す。

 小学校受験、すなわちその面接や考査においては、お手伝いなど「両親と共に家事などのお手伝いをする」というのが、合格のポイントになるとその人は言っていた。

 その時は、子供が乳児だったため遠い世界のこととして見ていたが、この界隈においては、避けることができない現実なのだ。

 それを会話の糸口に、森さん、高柳さん、佐橋さんは、堰を切ったように受験の話題を語り出した。

「まだまだって言っても、夏には見学会も始まるでしょ」

「上の子で経験したけど、年長になったら本当に何もかもあっという間よ」

 聞けば3人は、この知育教室とは別に受験対策塾に通っているらしい。そんなことは初めて耳にした。皆、専業主婦にもかかわらず、土曜のクラスに通っているのも、平日は他のレッスンで忙しいからという理由だった。

「…」

 3人の会話に置き去りにされた綾乃に、藤堂さんが微笑みかけてきた。

悔しまぎれの一言が…

「鈴木さんは、小学校受験はスルー組よね? うちも実はそうで…」

 それは、彼女の気遣いだ。だが、どこか悔しかった。

「あ…実は私も、一応国公立とかいくつかは記念受験しようかと思っているんです。子供はのびのびと育てたいけど、もし受かったらラッキーかなって」

 勢いで話してしまったが、半分は本気の言葉だった。

 今は置いてけぼりであるが、これから頑張れば小学校受験くらいなんとかなりそうだと。我が家には、その価値があるはずだからと。

 しかし、盛り上がっていた3人の会話が急に止まった。

「記念受験…?」

 綾乃は、場の空気がよどんだことを一瞬で感じる。

 その意味は会が終わるまで誰も教えてくれなかった。

#3へつづく:『有名小学校を記念受験』その言葉がNGだった意味とは…】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


現金より危険な面も…「電子マネートラブル」よくある事例と3つの対策法
 近年、現金を持ち歩かず、電子マネーを利用する人が増えていますが、それに伴って急増しているのが、電子マネートラブルです。...
親子でしっぽシマシマ隊! チビ“たまたま”がすくすく育ちますように
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
命がけで庭の雑草駆除、今年もやるの?ローメンテを叶える夏の雑草対策
 雑草が気になる季節になりました。「雑草」という植物なんて無いねえ~と言われちゃえばそれまでですが、道端はまぁいいとして...
トレンド入り「猫ミーム」インフルエンサーの投稿じゃないのになぜバズる
 2024年春、突如日本のSNSシーンで流行し始めた「猫ミーム」というカルチャー。日本だけでなく、今世界で流行し、そして...
え、ハブられてる? ママ友に嫌われる言動ランキング&上手に付き合う術
 子育て中の女性が必ず直面する「ママ友との付き合い」。気の合う人に出会えれば、情報交換や悩みごとを共有できる仲間として心...
カスハラとクレームの違い 料理が30分経っても出ないから文句言ったら?
 パワハラ、セクハラ、モラハラ…。最近何かと「ハラスメント」という言葉を耳にしますよね。その中でもここ数年でよく見聞きす...
「風呂キャンセル界隈」失敗談 足の臭いでバレ!自分を奮い立たせる方法
 ネットスラングで「風呂キャンセル界隈」というワードが話題になっています。読者の皆さんの中にも、その日の入浴をキャンセル...
丸見え族、参上! うさぎシッポの“たまたま”君にロックオン
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
何をそんなに怒っているのだ?
 何をそんなに怒っているのだ?  東京都庁近くにて。
ほっこり癒し漫画/第75回「ヘルプみーこ」(後編)
【連載第75回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
【難解女ことば】「小女子」ってなんて読む? ヒントはご飯が進むもの。
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
最新「グダグダなLINEやり取りの終わらせ方」知らないのは無防備すぎる
 仕事からプライベートまで、コミュニケーションツールとして使えるLINE。便利かつ気軽ではありますが、それゆえにダラダラ...
スマホを持たないサブカル老人の願い「本屋に行く楽しみを奪わないで~」
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
クレクレママの実態 買い換えるなら「車くれない?」っておねだりする!?
 人のものをすぐに欲しがるクレクレママ、あなたの周りにはいませんか? おさがりなどをもらってくれて助かることもあるけれど...
44歳独身、今からでも遅くない?ズル休み→大学進学を決めた“無敵の女”
 八王子の居酒屋で契約社員として働く由紀は、信じていた学生バイトに蔑まれ、客の若者にも罵られる日々。見かねた学生バイトの...
私の時給はパフェより低い…置き去り氷河期世代の苦悩「感覚死んでる」
 八王子の居酒屋で契約社員として働く由紀は、特段面白みのない毎日を過ごしている。元気な学生バイトたちに囲まれ慌ただしい日...