年収500万、大卒、婚姻歴なしでもムリ! “普通の男”すらなぜ現れない?

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-05-11 06:00
投稿日:2024-05-11 06:00

友人からの「ご報告」にウンザリ…

 萌香はグラスに残っていた液体を思わず一気に飲み干す。

 常温で一晩寝かせコクがさらに深まったフルボディが、傷ついた体を癒すように染みわたった。

 そんな時、スマホに表示された1件の通知に気づいた。SNSの新着投稿だ。

『ご報告』

 ▽

 ▽

 ▽

 ▽

 ▽

『入籍しました』

 コメント欄を下に下にスクロールした先に現れてきたのは、案の定の文言だった。

「はいはい」

 萌香はふたたび大きなため息をついた。

みんな、よくあんな男と結婚できるよね

 投稿主は友人。恋人のことは以前から話に聞いていた。どうしようもないダメ男で、その上アマチュアのバンドマンだそう。

 笑顔の横にある彼らの手には、指輪の代わりに赤い糸が巻き付けられていた。

 焦燥感はあるが嫉妬心はない。相手が相手だからだ。彼女が何度もその男性に泣かされていたことを萌香は知っている。結婚式は自らの意志でしないというが、おそらく金銭的な理由が裏にあるのだろう。

「よくできるよね、あんな彼と…。みんなもそう」

既婚者は「妥協しろ」って言うけれど

 萌香が勤める会社の先輩は、100kgを超える巨漢と結婚した。別の同僚は年収に多少の不満はあったが猛烈アプローチを受けて折れたらしい。

 ――『まあ、どこを妥協するか、じゃない?』—―

 婚活の相談をすると既婚者の友人は、口を揃えてこのようなことを言う。

 だが、萌香はひとつのことが気になると、それが頭の中にこびりつき、結果全ての言動に拒否感を抱いてしまうタイプだ。妥協をしても、それが相手への借しだと思って、代わりにさらに多くを求めてしまう。

 ――私は、本当に普通の人でいいのに!

 萌香は東京生まれ、東京育ち。父は銀行員、母親は専業主婦で、弟がひとりいる。

 中学から私立に通い、大学は指定校推薦で中央大の商学部に進み、丸の内の一般企業に就職した。今までの交際人数は3人だ。

 いたって一般的な、普通の人生を過ごしている。

20代後半には結婚すると思い込んでいた

 だからこそ周りの人がそうするように、20代後半で自分も結婚するのだと思っていた。

 しかし、26歳を過ぎてから仕事も多忙となったうえに、男性側の駒も減ってきたせいか、全く恋人ができなくなった。

 さすがに焦り、こうして婚活をし始めたわけだ。

『妥協って、どうすればいいと思います?』

 何気なく国崎に相談のメールをした。返事はすぐ返ってきた。

『妥協という言葉を使うからテンションが下がるんです。

 相手に寛容になろう、そう思ったらどうですか? 肯定的な考えに切り替えましょう』

 ピンとこない回答に「なるほど」と心にもない返信をして、萌香は逃げるようにテレビをつけた。

 日曜の午後2時過ぎ。市井の人々の生きざまを映し出すドキュメンタリーが放映されている。

 その番組で時折特集される対象は萌香の周りにはまずいない人たち。興味深く、動物園を見るような感覚で、たまに見てしまう。

 その日は、パチンコに興じる下町の人々が特集されていた。

 しばらく画面に目をやっていると、出演者のひとりである金髪女性の左手薬指に光るものを見つけた。

 萌香は行き場のないやるせなさに包まれたのだった。


#2へつづく:ついに理想通りの相手が現れる。だけど思うように進まず…】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


【難解女ことば】「小女子」ってなんて読む? ヒントはご飯が進むもの。
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
ほっこり癒し漫画/第75回「ヘルプみーこ」(後編)
【連載第75回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
八王子の居酒屋社員で月給18万円、腰かけ学生バイトの尻拭いをする日常
 八王子は21の四年制大学・短期大学・高専があるという。  全国でも学園都市として広く名が知られ、学生の数はおおよ...
私の時給はパフェより低い…置き去り氷河期世代の苦悩「感覚死んでる」
 八王子の居酒屋で契約社員として働く由紀は、特段面白みのない毎日を過ごしている。元気な学生バイトたちに囲まれ慌ただしい日...
44歳独身、今からでも遅くない?ズル休み→大学進学を決めた“無敵の女”
 八王子の居酒屋で契約社員として働く由紀は、信じていた学生バイトに蔑まれ、客の若者にも罵られる日々。見かねた学生バイトの...
クレクレママの実態 買い換えるなら「車くれない?」っておねだりする!?
 人のものをすぐに欲しがるクレクレママ、あなたの周りにはいませんか? おさがりなどをもらってくれて助かることもあるけれど...
スマホを持たないサブカル老人の願い「本屋に行く楽しみを奪わないで~」
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
大人の「友達がいない問題」はスナックで解決!?常連同士が仲良くなるわけ
 みなさんは大人になってからできた友達、どのくらいいますか? 「言われてみればもゼロ」なんてこともあるのでは?  ...
気高いオーラにゾクゾク! コワモテ“たまたま”の意外な素顔
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
自分の選択に誇りを持って。子どもを産まない理由、そして6つの決断
「DINKs」という言葉があるように、「子どもを産まない」ということが近年では夫婦の選択肢の一つとして普通になってきまし...
お店で見かけたら幸運! 超レア「バードネスト」の正体は野良ニンジン!?
北海道出身の主人とは衣食住、風習や慣習など折に触れ、関東で生まれ育った者(ワタクシ)との違いを感じます。結婚当初は行き来...
Threadsで実感!「クソリプを送る人」は概ねコレ、主婦の心の闇は深い
 セックスレスやセルフプレジャー、夫婦の在り方などをテーマにブログやコラムを執筆しているまめです。  私はX(旧T...
銀座で“750円のみほ&時間無制限”の「AOU銀座の森」がまさかの改悪!?
 コロナ禍以降、基本在宅勤務な方も多いのでは? 出勤のわずらわしさから解放されるのはいいけれど、たまには気分転換をしたい...
階段道の“たまたま”君♡嬉しいスリスリ攻撃であわや転落危機
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
南アルプスのコントラスト【春】
 柔らかな陽の光、鮮やかな桃色、雪をかぶる南アルプス。  まだ少し冷たい空気と一緒に胸に入り込まれてしまう。
ぐはっ!金欠で焼き肉のお誘い…ギクシャクも翌日リスケも回避する断り方
 金欠の時、友達から飲みや遊びの誘いが入ると、どうやって断るか悩んでしまう人は多いはず。  断り方によっては、人間...