優三も草葉の陰で苦笑い? 前代未聞な別れの“懺悔”は直言らしい名場面に

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2024-05-30 18:50
投稿日:2024-05-29 16:35

NHK朝ドラ「虎に翼」~第9週「男は度胸、女は愛嬌?」#43

 直言(岡部たかし)は栄養失調と肺炎でもう長くはないと診断される。直言が大事なことを隠していたと知った寅子(伊藤沙莉)の様子がおかしいが、はる(石田ゆり子)や直明(三山凌輝)も声がかけられない。

 それから直言はみるみる衰弱。自分が長くないと悟った直言は家族を枕元に集める。直言の身勝手な言葉に怒った花江(森田望智)は寅子にきちんと怒って向き合ってほしいと頼む。

【本日のツボ】

直言の懺悔に、優三も苦笑い?

 ※※以下、ネタバレあります※※

 自分の死期を悟ったか、直言はこれまで胸に秘めていたことを一気にまくし立てます。まずは、優三(仲野太賀)の死を隠していたことについて。寅子に「ごめん」と謝るも、「知らせが来て、つい隠してしまった」と。ところがこの先がいけません。

「今、トラが倒れたら、うちは…我が家がダメになると思って、そう思って言えなかった」と言いました。

 これだけを聞くと寅子のことを案じて、というよりは、自分たちのためとも取れます。いくらその後で、「俺はこの通り、弱い、駄目な、愚かな男なんだ」と謝られたとて、です。

 それだけではありません。勢い余って「トラが結婚した時、正直、優三くんかあとは思った」「もちろんトラが幸せならそれでいい。でも、花岡(岩田剛典)くんがいいなあって、思ってた」などと言い出したのですから。

「花岡くんの下宿先を見に行ったこともある。下宿先に土産を持って行ったこともある。佐賀に行く知り合いに、花岡くんのご実家を見に行ってもらったこともある」。次々に出てくる言葉に、「嘘…」と絶句する寅子。

「もちろん優三くんには感謝している。優未という可愛い可愛い孫にも会わせてくれた。でも、直道と花江ちゃんの結婚とは違うというか…」「だって、寅子の夫は花岡くんだと思い込んでいたから。こりゃ、トラは確実に幸せを勝ち取ったぞ~。周りに自慢できるぞ~。老後も安泰だ~なんて思ったりしちゃったもんだから」と。優三がこの場にいたら、苦笑するしかないでしょう。

出てくる出てくる、止まらない止まらない

 勢い止まらず、「共亜事件の時にトラがしつこくて腹が立った」とか「はるさんが怖くて残業と嘘ついて飲みに行った」とか「直明が出来過ぎる子だから本当に俺の子か、と疑ったこともある」とか「花江ちゃんがどんどん強くなって嫌だなあと思ったこともある」などなどと懺悔は続きます。

 なかには「優未を高い高いして鴨居に頭をぶつけたのを黙っていてごめん」というのもあって、そのたびに言われたほうの人たちの表情が変わるのがたまりません。「こんなお父さんでごめん、ごめんな」と頭を下げる直言。

「でも、おとうさんだけだったよ。家族の中で女子部に行っていいって言ってくれたのは」「どんな私も可愛い可愛いっていっぱい言ってくれたのはお父さんだけ。それはずっと変わらないから」と寅子。

「まだよ」


 ここで、これまでの回想シーンが流れ、「当たり前だろ。トラは俺の誇り。宝物なんだから。トラ、ごめん」そう言って寅子の手を握ったまま、床につっぷしてしまう直言。「お父さん」「お父さん」と呼びかけるも反応はなく、はるが息を確認し「まだよ」と。

 この「まだよ」には笑ってしまいました。「スッキリした顔しちゃって」と思わず笑う寅子。直言の顔に手をやり「あっちょんぶりけ」を。

 安心したのもつかの間。「数日後、直言は静かに息を引き取りました」ファンキーな劇伴も相まって、これまでにない別れのシーンは直言らしい名場面となりました。

桧山珠美
記事一覧
TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


【芸能クイズ】再始動のダウンタウンに期待の声。では「笑ってはいけない」第1回の“ペナルティー”は何だった?
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
“超豊作”の秋ドラマがアツい! 大泉洋×野木亜紀子に期待爆発、三谷幸喜の“クセ強ドラマ”はジワ伸びの予感?
 夏の暑さが落ち着き、心地よい夜風が吹くこの季節。ドラマの秋がやってきました!  2025年の秋ドラマは、まさに「...
「ばけばけ」お見合い相手は“べらぼう”の29歳俳優じゃないか!過去“朝ドラ”女優も登場で今後が楽しみ
 両家の親同士も良好な雰囲気で、トキ(髙石あかり)と銀二郎(寛一郎)のお見合いはうまくいきそうな空気に。このままいけば結...
桧山珠美 2025-10-11 12:30 エンタメ
フワちゃんを許すことが“大人”なのか? 非常識な人にブチギレるのは当たり前ではないのか
 Xで芸人・やす子に対して、《おまえは偉くないので、死んでくださーい 予選敗退でーす》と揶揄する投稿をしたことをきっかけ...
堺屋大地 2025-10-10 13:06 エンタメ
永野芽郁、「お兄ちゃん」呼びの“癖”を暴露されて可哀想。“妹アピ”に騙される単純な男が多すぎる件
 今年4月、田中圭との不倫疑惑スキャンダルで世間を騒がせた永野芽郁が、3年ほど前の交際相手・坂口健太郎から二股をかけられ...
堺屋大地 2025-10-09 11:45 エンタメ
「ばけばけ」トキ(髙石あかり)の妄想に一瞬、脳がフリーズ。ほんわかテイストに賛否が分かれそう?
 ついに貧乏脱出のチャンス! はじめてのお見合いに挑む、トキ(髙石あかり)。  司之介(岡部たかし)やフミ(池脇千...
桧山珠美 2025-10-08 14:34 エンタメ
藤井風、92歳の黒柳徹子を“乙女”に変えるフェロモン。ついにシニア世代まで色気がバレたか
 最近、藤井風のことが気になって仕方がありません。9月5日に3rdアルバム『Prema』が発売。それに伴い、9月はメディ...
笑顔がこわい!「ばけばけ」トキ(髙石あかり)の“顔芸”が完璧だった。見どころの一つだと確信した回
 貧乏脱出のため結婚を目指す、トキ(髙石あかり)。しかし、チヨ(倉沢杏菜)とせん(安達木乃)と行った恋占いの結果は一人だ...
桧山珠美 2025-10-06 17:13 エンタメ
平野紫耀らの「脱退発表」から約3年…Number_iとKing&Prince、それぞれの現在地と課題。“二大天然ボケ”不在の影響はあるか?
 2022年11月、King & Prince(以下、キンプリ)から2023年5月をもって平野紫耀(28)、神宮寺勇太(...
こじらぶ 2025-10-05 11:45 エンタメ
「ばけばけ」は“聖地巡礼”したくなる朝ドラの予感。実際にある島根県・八重垣神社の“恋占い”してみたい!
 明治19年。トキ(髙石あかり)は、借金を返すために親戚の雨清水傳(堤真一)が経営する機織り工場で働いていた。しかし、膨...
桧山珠美 2025-10-04 10:42 エンタメ
「あんぱん」アンパンマンは粒あんか、こしあんか…“お遊び”が楽しかった特別編。蘭子の“その後”はモヤモヤだけど
「あんぱん」が終了したと思ったら、早くも翌週の9月29日(月)~10月2日(木)の四夜連続で、スピンオフが放送されました...
桧山珠美 2025-10-04 08:00 エンタメ
「ばけばけ」しめこ汁に“朝から残酷”の声もあるけど…ピーターラビットの話を思い出す
 突如、トキ(福地美晴)やフミ(池脇千鶴)、勘右衛門(小日向文世)の前から姿を消した司之介(岡部たかし)。何日経っても家...
桧山珠美 2025-10-02 15:48 エンタメ
「ばけばけ」は往年の名作を越えられるか? 「虎に翼」から続く岡部たかしの“父親”像が楽しみだ
 この世はうらめしい。けど、すばらしい。没落士族の娘・松野トキ(髙石あかり)と外国人の夫・ヘブン(トミー・バストウ)。怪...
桧山珠美 2025-09-29 17:50 エンタメ
「あんぱん」最終回。半年間、2人を見守ってきた視聴者にはグッとくる場面…ま、終わりよければすべてよし!
 のぶ(今田美桜)の病室に着いた嵩(北村匠海)は、にっこり笑うのぶの姿に胸がいっぱいになる。その後退院したのぶは、嵩に自...
桧山珠美 2025-09-27 15:10 エンタメ
timeleszの演出に賛否…中島健人ら初期メンバーの歌声に込められた真意。“8人体制”はどう継承していく?
 9月15日、timeleszがファンミーティング「timelesz SUPER FAMeeting~また夏が終わってい...
こじらぶ 2025-09-27 11:45 エンタメ
「あんぱん」八木(妻夫木聡)のプロポーズにキュン! 蘭子(河合優実)のモデルがあの作家なら…無事を祈る
 2年がかりで完成したテレビアニメ「それいけ!アンパンマン」が放送され、のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)をはじめ、それぞ...
桧山珠美 2025-09-27 12:28 エンタメ