恋愛上級者を口説くのもバカバカしい
「向こうのほうが恋愛上級者かもしれないって思ったら、口説くのも、なんだかバカバカしくなっちゃって。
紗子さんは今も綺麗な人だけど、あの器量ならきっと、20代や30代の頃はさぞかしモテてきたと思うんだよねぇ。
今で言うパパ活じゃないですけど、おじさん相手に高級レストランの料理なんかも、ゴチでたくさん食べてきたクチなんだろうなぁって言葉の端々から、ヒシヒシと感じるんですよ。
そう思っちゃたら、なんだか急に、紗子さんとは深入りしてはいけないような気がしてしまってね」
ここまで饒舌に話していたスグルさんは、急に暗い表情に変わり、隠していた本心を語り始めます。
楽しいのは最初だけ
「それに…。仮に今、紗子さんと俺が付き合ったとして、半年後、1年後も仲良く付き合っている自信があるのか? って聞かれたら、答えはノーなんです。
そりゃ付き合えば、最初のうちはそれなりに仲良く過ごせそうだし、きっと幸せに感じるんだろうなって思いますよ。でもね、価値観や金銭感覚が合わなかったら、きっとすぐに衝突し合いますからね。そうしたら毎日不愉快なだけじゃないですか。
えっ? そんなこと言っていないで、まずは相手に飛び込んでみろって? そうじゃないと恋愛なんていつまで経っても始まらないですよって?
いや〜…、それはその通りなんですけどね。やっぱり俺ももう50歳になろうとする年齢なんで、無駄な労力はなるべく使いたくないんですよ。
ただ、このままズルズルとLINE友達、食事仲間みたいな関係を続けていたって仕方ないってのも、わかってはいるんですけどねぇ…。
付き合うっていうことに対して、俺自身が若い頃よりも臆病になっているのを痛感しますね」
◇ ◇ ◇
恋人同士であれ、夫婦であれ100%同じ価値観を有する男女は稀です。ましてや交際前の男女となれば、なおのことです。少しのすれ違いが、大きな溝に発展することも少なくないのが異性間における現実でしょう。
まさにこれこそが、男女関係における醍醐味にもなれば致命傷にもなる“冷酷と激情”のはざまなのかもしれません。
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