お店に登場したのはかつての仲間だった
「――あれ、今日はエリナ先生も一緒?」
席に通されしばらく待っていると、絵里奈も知った顔が声をかけて来た。
「有井ちゃん…里山先生?」
それはかつて共に切磋琢磨していた仲間や漫画家の先生たちだった。待ち合わせて来たのか、集団の一番背後には拓郎がいる。暗めの照明で顔色は判らないが、表情で蒼白しているように見えた。
――漫画家仲間の飲み会、ってこと?
「パパー」
ウミとナミが拓郎を見つけ、一直線に駆け寄った。そうなると、彼も受け入れざるを得ない。
「もしや、今日はエリナ先生もサプライズで参戦ってことですか?」
旧友の一人がいたずらっぽく絵里奈に尋ねた。
私だけ除け者にされていた
「え、あ…まあ」
「たくろー先生からエリナ先生のことはよく聞いていましたから、ずっと会いたかったんですよ! たくろー先生に連れて来るように言ったけど、エリナ先生は子供が大好きすぎて漫画とは縁切ったって言うから」
「そりゃ子供は大好きだけど…縁を切ったわけじゃ」
案の定拓郎は、絵里奈が泣く泣く筆を折った後も、ペンネームを変えて、密かに漫画家活動を続けていたらしい。
いつ購入したかさえも知らないMacBook Proを片手に、仕事終わりに深夜のファミレスで描き続け、今もマイペースにネットで活動中なのだそうだ。
このような定例の仲間との交流も欠かさないという。
「これからも支えてあげてね」
それに対しての愚痴を隣に座った旧友にポロリと吐き出したところ、彼は言った。
「まぁ、たくろー先生はさ、描かなきゃ生きてられない漫画バカだから仕方ないですよね。今はいつでもどこでも描けて、発表もできる時代で良かったですね。これからも先生を支えてあげてくださいね」
拓郎は、絵里奈の顔色をチラチラ窺っていた。少し離れた席で、これ見よがしに娘たちをあやしながら。
後ろめたいことをしていた自覚はあるのだろう。拓郎もまた、絵里奈のくすぶる炎に気づいていた。
それだけに、裏切られた感覚はよりいっそう絵里奈の絶望を深く抉(えぐ)っていた。
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