なぜか居心地の良さを感じるようになって…
「この二人、クラスでは仲良しすぎて浮いているみたいよ」
ポケモン図鑑を眺めてクイズを出し合う娘たちに温かな視線を送りながら、来良はドリンクバーで入れて来たコーラを傾けていた。
「でしょうね」
溜息をつきながらも、受け入れざるを得ない。愛舞といる葵は本当に楽しそうな笑顔を見せているのだから。
「参観日の時に言われちゃったのよ。誰だっけ、いっつもバーキン見せつけて歩いているあの人に」
「鈴華さんのお母さま?」
「そう!『浮いているから何なの?』って言ってやったけど」
ゲラゲラと笑う彼女に、由香は同調していた。久しぶりに日常で感じた居心地の良さ。いざ、受け入れてみるとラクなものだった。足を組んで、頬杖をついている自分がいる。
「ねえ、なぜこの子たちはあの学校に入ることができたのかしらね」
明確な答えを求めているわけではなかったが、ぼんやりと来良に尋ねてみた。そんな雑談ができる空間がこの場に流れている。
「そんなのわかんないよ。由香さんは義理のお母さんがOGだからでしょ?」
「まあ…それもあるだろうけど」
「あと、葵さんと仲がいいからじゃないの。うちの学校は面接で母娘の関係性を重要視するってお教室の先生が言っていたし」
母の願いを叶えてくれた娘
確かに葵と自分の関係性が深いのは事実だ。彼女があの学校に合格したのも、「お嬢様学校に入れたい」という母親の願いを叶えるために必要以上に頑張ったからではないかと思う。
ただいずれ、もし葵に確固たる自我が芽生えたらその意志は尊重したいとは思う。
今日もそうだ。
つい最近まで、由香はポケモンを男児向けの乱暴なアニメだと思っていた。しかし、葵が興味あると知り、その印象はだんだんと変わっている。
ポケモンのクイズを楽しそうに出し合う女児たちの様子に由香は目を細めた。民放テレビは解禁してもいいかと思い始める。
「うちの愛舞はさ、前も言ったように、めちゃめちゃ賢いのよ! 校風的に入る学校間違えたと思ってるから、中学受験で抜け出すつもりよ。私も夫も偏差値高かったし、桜陰なんてどうかなって思って」
マウントなのか、純粋に親バカなのかギリギリの発言をする来良だったが、その天真爛漫さが由香にとって気持ちよかった。
「うちもそうしようかしら。葵は負けず嫌いだしね」
「でしょー? やっぱり、葵さんも由香さんとも通じるところがあると思っていたの」
「ちょっと待って、一緒にしないで」
これが私の世界の限界
来良は手を叩いて笑い、由香もそれを追う。
そして、お義母さまから言われた「無理に私の家に合わせなくとも」という言葉も、背伸びする由香の根の部分を見透かしていたゆえの言葉だということに気づく。
――きっと、これが私の世界の限界…。
絶望の底に見えた、葵の楽しそうな笑顔。ここが自分のいるべき場所なのだろうかと、下町のファミレスの絶叫とざわめきの中で自らに問う。
拒否したい自分がいながらも、その日、由香自身も久しぶりに大きな声で笑えたのは、抗えない事実であった。
Fin.
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