田舎を捨てた「独身女」は不幸ですか 絶縁した家族が来て…今さら何の用?

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-09-07 10:12
投稿日:2024-09-07 06:00

いつものマンションが何かおかしい…

 いくらとウニ、ホタテがふんだんに入った海鮮丼といかめし、ザンギなどを買い込み、心弾ませて帰る先は、初台駅から徒歩5分の位置にある1LDK、築15年ほどの中古分譲マンションだ。

 ここは1年前に購入したばかりの自分の城。不動産業の知人を通じ比較的割安で手に入れた。

 35平米ほどの部屋は少々手狭に感じることもあるが、一人で暮らすにはちょうどいい。小さいがベランダもあり、そこから西新宿の夜景を眺めながらビールを傾けるのが咲子の至福の時間だ。

 しかも今晩は、北海道のご馳走が満載だ。口内にその味を思い浮かべながら、駐輪場にバイクを止める。そして、足取り軽く正面玄関から入り、オートロックを解除したその時だった。

 ――…ん?

背後に聞こえる不穏な足音は

 自動ドアが開いたタイミングで、背後から何者かが近づいて来る気配を感じた。

 誰かがマンションに入ってきたようだった。背格好からして男だろう。

 東京に暮らし始めて20年の勘…。

 咲子はエレベーターに向かう前に、まず立ち止まる。先を譲ろうとするためだ。手にはスマホを握りしめている。足音は徐々に近づいて来た。

 …すると、男は咲子の肩を掴んだ。

「!」

「姉ちゃん!」

 それは、耳の奥の遠い記憶にある声だった。

「…将平」

 振り向く。5歳年下の弟がそこにいた。

17年間、疎遠だった弟の訪問

 再会は17年ぶりであった。実家や親戚には、電話やLINEを知らせていない。何かの時のために住所だけは伝えてあるため、一方的に年賀状は送られてくるが、それ以外のやりとりはほぼ断っている。

 彼の結婚式にも出ていない。帰郷も一切していない。

「ひさしぶり。よかった、姉ちゃん生きていた」

「相変わらず失礼だね」

「とにかくさ、外でずっと待ってたんだよ。トイレ貸してくんない?」

「…」

 この場所で立ち話をするわけにもいかず、咲子は将平を部屋に迎え入れることにした。

 突然、遠い故郷からこの場所までやってきたことに、どこか嫌な予感をはらみながら。

#2へつづく:将平から聞かされた咲子の地元での評判とは】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


「我が子を可愛いと思えない」産後に心が壊れかけた経験談。私は母親失格だ…なんて思わないで
 出産してから「なんだか最近自分が自分じゃないみたい」などと異変を感じている人は、先輩方の声を参考にしてみるとよいかもし...
義母「うちの子そっくり」にザラつく…。“孫フィーバー”の裏、無視され続けた嫁の叫び。私は透明人間じゃない!
 私の友人サエ(32歳・銀行員)が第一子を出産したのは昨年の冬。待望の赤ちゃんが誕生し、夫婦で新しい生活を始めた矢先、彼...
芸術の秋!美少年“にゃんたま”の曲線美と薔薇にうっとり♡ まるで絵画みたいじゃない?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
騙された!一見“仕事デキる風”…でも実は? 有能ぶったLINEにご用心。“能ある鷹”の逆パターンも
 世間では仕事ができない風に見えるLINEを送ってくるのに、実は超有能な人材だった話もよくあります。その一方で、本当は無...
【漢字探し】「鰯(イワシ)」の中に隠れた一文字は?(難易度★★★☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
母が急病、社長の「帰りなさい」に涙…一生ついて行くと決めたLINE3選。元カレの言葉にホッ
「この人だけはどんな自分も受け入れてくれる」「この人だけは失いたくない」など、絶対的な信頼や必要性を感じる人に出会えると...
【マジかよ】ごま油×ミルクコーヒーに反響。老舗メーカーの“推しレシピ”にネット困惑「ヤバそう」「勇気でない」
「金印純正ごま油」などで知られる老舗メーカー「かどや製油」。企業公式X(旧Twitter)が2025年10月1日に投稿し...
「夜職だって立派な仕事」それ、本気で言ってる? 水商売への “本心”に気付いてしまったスナック嬢の独白
 最近は本当に“キラキラ夜職”が表に出る時代になりましたね。が、私は本当に危ないと思っています。 「そんなことない...
私が『愛の、がっこう。』に重ねた親との苦しい関係。振り返ってわかる“完璧じゃない”からこそ得られたもの
 フジテレビ系で放送されたドラマ『愛の、がっこう。』を観ながら、ふと「わたしの親も、今で言えば“毒親”だったのかもしれな...
スター猫になれるかな? 夢見るハチワレ“にゃんたま”の練習風景をチラリ☆
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
浮気を警戒したら逆ギレ!?  私が「絶対に謝りたくない」と思った瞬間7選。何でこっちが悪者なの?
「仕方なく謝ったけど…これ私、悪くないよね?」誰しもそんな気持ちになったことがあるのではないでしょうか。  今回は...
30代はご褒美ボディケア、中年女は塗り薬まみれ。色気から進化した風呂上りの「おばケア」事情
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
定時で帰っていいよ→役立たずってことですか!? 職場で出会った「めんどくさい女」図鑑。扱いに困るよ~
 あなたの周りに“めんどくさい女”はいませんか? 今回は体験談を交えながら、接し方に困る女性の7つのケースをご紹介します...
女性の“性”は「下ネタ」なのか? タブー視する社会に言いたい、語り合うことで生まれる安心感
 性の話題は「恥ずかしい」「隠すもの」とされがちですが、思い切って触れてみると、不思議と距離が縮まります。普段は口にしづ...
45歳、いつになれば楽になる? 自由に生きてるはずの私が、定食屋の秋刀魚で涙を滲ませた理由
 踊り子として全国各地の舞台に立つ新井見枝香さんの“こじらせ”エッセーです。いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きな...
月経不調はストレスで悪化する? “脳疲労”と生理痛を軽くするセルフケア【専門医監修】
「生理痛はいつものこと、仕方ない」「PMSは気のせい」--などとガマンしてそのままにしていたり、鎮痛薬でやり過ごしたりし...