毒親の介護をしたくない 実家から逃げた女が「決別」のため払った金額は

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-09-07 10:11
投稿日:2024-09-07 06:00

【新宿の女・西村咲子38歳 #3】

 西新宿のビル内にある大手食品会社のデザイン室に勤務し、初台に暮らす咲子。実家とはほぼ縁を切ってはいるものの、おひとりさまを満喫している。そんなとき、突然弟・将平が目の前にやってくる。彼は咲子を都会で失敗をした寂しい独身女性扱いをし…。【前回はこちら】【初回はこちら

 ◇  ◇  ◇

 玄関ドアの奥から、しばらく怒声が聴こえていたが、5分も経過すると自ずとそれは止み、平和な夜が再び訪れた。

「さて…」

 咲子は冷蔵庫に隠しておいた、海鮮丼やザンギ、そしてサッポロクラシックをさっそくテーブルの上に並べた。

訪れた平穏な時間。忘れ物の中身は?

 見た目にも鮮やかなサーモンやいくら、ウニにマグロ。食欲をそそる温めなおしたザンギの匂い。これらは、全て咲子のもの。自分が汗水たらして手に入れたご褒美ディナー、しめて4000円だ。

 危うく将平に出してしまう所だった。もしそうしていたら、彼は文句を言いながらも平らげたであろう。

「おいしい…有休もあるし、今度の連休は北海道に一人旅するのもいいな」

 そのままスマホで旅行予約サイトを見てみる。人気の洞爺湖畔のリゾートもシーズンオフのせいか、余裕で空きがあった。

「おひとりさまプランは宿泊費だけで5万…まあ、ボーナス使えば何とかなるか」

 咲子は会社のスケジュールを確認した上で、予約することを心に決める。

 食べたいもの、行きたい場所は山ほどある。胸を膨らませ、脳裏で旅程を練っていると、部屋の片隅に見慣れぬ大きな封筒が置いてあることに気づいた。

 ――ん? 

 手に取ると、それは大手ベッドメーカーのロゴが入った封筒だった。

「介護用品のパンフレット」に驚く

 将平が忘れて行ったものだと思うと、途端に気分が重くなる。実家にはもう、郵便物を送りつけることでさえもしたくなかった。

 ただ、それは彼が勝手に忘れていったものだ。仕事の重要な書類であろうが、わざわざ返す義理はないことに気づく。

 明日は資源ごみの日。この呪物をさっさと処分しようと、分別のために封筒の中に入っていたものを全て出した。

 だが、それらを見て、咲子は目を見開いた。

「…電動ベッド? リフォーム?」

 封筒の中に入っていたのは、介護用品のパンフレットの数々だった。どうやら、有明の大型展示場で介護用品などの展示会が行われており、将平はそれに参加していたようだ。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


平日夜8時、話題のオーケー銀座店の惣菜コーナーに行き完全敗北した件
 10月17日、東京・銀座3丁目のマロニエゲート銀座2内に「オーケー銀座店」がオープンして話題になっていますね。銀座の一...
#3「バカにされてる?」元彼のイヤミがつらい。女が椎名林檎を歌う理由
【#1、#2のあらすじ】  阿佐ヶ谷のスナックに勤務している紘子は、役者を目指しながらもくすぶっている日々。そんな...
#2「普通の女」に負けた美人は怨念まみれのSNSがバズり快感を覚える
【#1のあらすじ】  阿佐ヶ谷のスナックに勤務している紘子は、役者を目指しながらもくすぶっている日々。そんな彼女の...
「鉛筆なめなめ」「セクハラはやめて」悲しきおじさんビジネス用語3選
 会社に勤めている人なら、50代以上のおじさんたちが「おじさんビジネス用語」を使っているのを聞いたことがあるかもしれませ...
経験は「ナマモノ」…感情も感度も“錆びた大人”になっていませんか
 人生において経験は重要ですよね。これから先の未来や、あるいは後輩たちを助けられるかもしれません。  だけど昔の経験に...
あなたにとっての「過去」はいつ? 過去を閉じ込めた空間で
 過去という言葉の意味が広すぎて、思い浮かべるイメージがまったく違うと気づいた。  ある人は自分が小さかった頃を、...
奢り奢られ問題…リュウジ氏にもう港区くるなよ?の反論、私達が学ぶこと
 ネットを大いに騒がせた「奢り奢られ問題」。料理研究家のリュウジ氏のSNS投稿が火種となり、多くの意見が寄せられました。...
15キロ太ったからつまんないの? “サイズ44”に教えられた自分の本音
 2度の出産と加齢と腰のヘルニアを経て、5年をかけて15キロ太りました。実はそれについては人が思うほどは気にしていない…...
5年に1度の逸材にゃ!ノーブルすぎる“たまたま”に思わず合掌
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「出世したくない人」激増のナゼ 共通する特徴と4つの理由に妙に納得…
 令和の今、社会人の中でも「出世したくない」と考える人が非常に増えているようです。少し前まではどうにかして出世してやろう...
ハロウィンの新顔!小粒な「ソラナムパンプキン」は枝にぶら~んぶら~ん
 まもなくハロウィン。猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋さんに、今年も大きなパンプキンが店頭を占拠する季節がやってま...
26歳ギャラ飲み女子の貯金額は3000万円!昼はOL、非港区系の堅実生活
 経営者や著名人、人気のインフルエンサーも利用する「ギャラ飲み」なるサービスって知っていますか? 東京都内のみならず、全...
いくつになっても、誰かに褒められるのはやっぱりうれしい
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
出産を機に中途半端なキャリアに…今にマッチした働き方は?
 先日X(旧Twitter)で、米ハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディン氏がノーベル経済学賞を受賞したニュースを...
シンデレラ城より“我が城”が好き!LINEが示すめんどくさがりやの実態
 めんどくさがりやの人は、できるだけ身動きしないで済むように、いろいろな方法を駆使し、少しでも楽な生活を追求していますよ...
水しぶきの向こうに見えた太陽 長く暑かった季節を偲んで
 次の季節に向かうとき、少し寂しくなるのはなぜだろう。  高3の夏の終わりに自分の手でプールのカギを閉めたときとは...