女はお嫁さん要員? 年収800万でも「行き遅れ」と見下される田舎の地獄

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-09-07 10:08
投稿日:2024-09-07 06:00

図々しい弟の信じられない言葉が続く

 早く帰ってほしい…。咲子は拒否感を察してもらうが如く、無言でキッチンにこもり、洗い物をし始める。

 すると、信じられない言葉が背後から聞こえてきた。

「ねえ、メシとかないの? 今日はここに泊まるつもりで来たんだよね」

「…え?」

 将平は今日、出張で新宿に来たと言う。

 近隣のホテルに宿泊しようとするも、インバウンド旅行者の影響かどこを探しても予算オーバーのため、咲子の家に泊まることを思いついたらしい。

「まさかこんなに狭い部屋だとは思わなかったな。まあ、壁と屋根があるだけましっつうか」

 なんと図々しい発想だ。長年距離をおいていても、結局あの家の中で自分は虫けらのような存在なのだと身に染みる。

 ――あの時、出て行ってよかった…。

女性は「お嫁さん要員」でしかない田舎

 咲子は20年前、デザイナーを目指し、大学進学と同時に上京した。

 進学も上京も親から反対されていたが、猛勉強の末に東京藝大に合格し、仕送り不要、東京は卒業までという約束で両親をねじ伏せた。

 しかし、大学3年の夏休み。就職活動で地元に一時帰省すると、両親は言った。

「就職先は既に決まっている。咲子はそのまま卒業するだけでいい」

 聞けば、父親が懇意にしている地元企業に一般事務職として働く折り合いがついているという。その企業は社内結婚率が高く、地元の噂では女性社員はほぼお嫁さん要員としてみられていると聞いていた。

 そもそも、地元に帰るのも本意でなかった咲子は、卒業後も東京に残る決意をした。親が決めた就職先も自ら連絡し、辞退。勝手な行動に父親が激怒し、大喧嘩となったのは言うまでもない。

 疎遠になって以来、地元の同級生伝いで近況は耳に入っているようだが、事務的な連絡を除き咲子からは何も起こしていない。何かしらのアクションがあったのは今回が初めてだ。

 結局、ホテル代わりではあったのだが…。

「狭い部屋で、惨めな生活じゃん」

「姉ちゃんもさ、あの時おとなしく就職して、同じ会社の人と結婚してりゃ、俺ん家みたいに大きな家と車のある生活ができてたはずなのになぁ、失敗したね」

 将平はボリボリと白い恋人のカスをソファの上にまき散らしながら、咲子にアピールするかのようにぼやいた。

「…そうかな? 私は今でも十分幸せだけど」

「強がっちゃって。俺恥ずかしいよ、地元じゃみんな姉ちゃんのこと『行き遅れ』とか『かわいそうだ』って噂してるし。成功しているならまだしも、結局、こんな狭い部屋で、仕事だけで自意識満たしている惨めな生活なわけじゃん」

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


もう限界! アラフォー妻たちが今でも許せない義母の一言集
 結婚とは切っても切れない「義母」という存在。うまく付き合っているように見えても、実際には不満を抱えているケースも多いよ...
ぼっちクリスマスの何が悪い?「8つの楽しみ方」をご提案♪
 シングル女性は「今年も、ぼっちクリスマスかぁ……」なんて、憂鬱に感じている人もいるのではないでしょうか。しかし、クリス...
大学中退で最終学歴は高卒…自身のキャリアは子育てで消滅?
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
友達に「縁を切られた」時こそ見直すべき5つのことがある
 人間関係は、大人になればなるほど難しくなるものです。「仲が良い」と思っていた相手から、突然冷たい態度を取られて「縁を切...
2022-12-12 06:00 ライフスタイル
∞(無限)にかわゆい♡にゃんたま見ーっけ!神ショット!!
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
つまずいた時、自分ひとりで立ち上がれる?2022.12.11(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
リモートワーク中に意識ブッ飛んでない?眠い原因と賢い対策
 コロナ禍で一気に増えたリモートワーク。でも、「会社でならテキパキ仕事をこなせるはずなのに、家だととにかく眠い!」と悩ん...
「子供っぽい大人」の対処法 完全オミットの前に試してみて
 人にはそれぞれ個性があり、性格も異なりますが、年齢を重ねるごとに成長するものです。しかし、最近は「子供っぽい大人」が増...
「生きづらさ解消」の糸口は? 幼少期の褒められ体験にあり
 みなさんは自分がどんな子供だったか覚えていますか? 活発だった、運動が苦手だった、人見知りだった。いろいろあるとは思い...
ミニマリストが気になる!「物を減らすこと」の意外な利点
 徐々に社会に浸透してきた「ミニマリスト」の生活。気になるという人も多いですよね。物が溢れた時代だからこそ、本当に必要な...
寒い季節は「おうち時間」を極めるいい機会 2022.12.8(木)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
ぷっくりひげ袋がかわいい“たまたま”わんぱくなお顔をパチリ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
バックパンツ丸出しで赤っ恥!勝負の同窓会でやらかし失敗談
 懐かしい同級生と再会できる同窓会ですが、楽しい時間を過ごした人ばかりではありません。中には、同級生をドン引きさせてしま...
大人になって誕生日の意味が変わってきた 2022.12.7(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
切り花が「長持ちする場所」ってどこ?遠ざけたい意外な天敵
 自宅用のデイリーユースだけでなく、冬のイベントやお歳暮シーズンなのでお花がとても売れます。 「切り花を長持ちさせ...
「稼ぐ派vs節約派」の主張 どっちの方がお金が貯めやすい?
 あともう少し、自由に使えるお金がほしいと思った時、あなたは「稼ぐ派」ですか?「節約派」ですか? 今回はそれぞれの意見を...